「4年ぶりに本音を語ったのか?オバマ大統領の就任演説」

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「4年ぶりに本音を語ったのか?オバマ大統領の就任演説」


It was an expression of a genuinely pluralistic America, the first inaugural address of a new sort of American civil spirituality.

これは、純粋に多様なアメリカをかたり、アメリカ国民の新たな精神性を語るはじめての就任演説である
(ワシントン・ポスト紙)

【ニュース解説】
 ニールセンの調査によれば、オバマ大統領の2期目の就任演説 Inauguration address をテレビでみた人の数は2000万人以上。1期目の3700万人以上という記録的な数字に比べれば少ないものの、二期目の演説としては、かなりの視聴率であったと評価されています。

 オバマ大統領の二期目の就任演説は、日本ではあまり報道されませんでした。
 しかし、この演説はアメリカの原点に立ち返り、それを未来へとつなげてゆこうというインパクトのある演説でした。正直なところ、話題となった一期目の就任演説より、内容的には彼の抱くビジョンにより踏み込んだ哲学的ともいえる深みのあるものでした。

 それだけに、この演説には、アメリカを理解する英語表現が満載で、アメリカでの政治的なテーマや、様々な場所での著名人の演説を理解する上でもとても参考になるスピーチでした。

We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the Pursuit of Happiness
われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すべての人間は生まれながらにして平等であり、神によって、生命、自由、および幸福の追求という不可侵の権利を与えられているのである

 これは、大統領が演説で引用した、アメリカの独立宣言の一部です。この文章はアメリカ人が子供の頃学校で暗唱させられるくらい、大切な文章です。ですから、多くの人が演説をするときに、この一文を引用したり、それを意識したスピーチを行います。
 日本では、明治時代に福沢諭吉などの知識人が、欧米の民主主義を学習するテーマとしてこの文章を引用し、日本の近代化に大きな影響を与えました。
 さらに、戦後に日本国憲法を制定するにあたって、アメリカの意向が強く反映されたことはよく知られた事実ですが、その骨子となった考え方はこの独立宣言に他なりません。
 つまり、この宣言は、アメリカの独立に関する一国の文章ではなく、その後の世界情勢に大きな影響を与えた一つの核となる文章なのです。

 さて、オバマ大統領は、時とともに、この文章の崇高な理想をどのように運用するかについては変化があって当然だと指摘しています。

Progress does not compel us to settle centuries-long debates about the role of government for all time – but it does require us to act in our time.
長年に渡って議論されてきた政府の役割に関して、その議論の中断を強いるものではありません。ただ、我々の時代に合った行動をしようではありませんか

 このように語るオバマ大統領は、独立宣言の精神に従って、国民の自由や平等、そして幸福を求める権利を実現するためには、国が積極的に役割を担ってゆくことを主張します。
 国が動くのではなく、動く判断は個人の自由に任せるべきだと長年に渡って主張してきた共和党の人々や、アメリカの保守層に、今アメリカが直面している貧富の差、銃社会と治安の問題、教育や移民の問題、さらに世界に向けたアメリカの役割やテロとの戦いにおいて、国がイニシアチブをとって制度を造ってゆくべきだと大胆に提案したのです。
 そこには、二期目に入るオバマ大統領が、自らのスタンスをより鮮明にし、国民健康保険の制定や、銃規制、貧富の差を意識した税制改革に取り組もうと呼びかけていることを改めて強調する意図がありました。
 また、独立宣言のときの「all men are created equal」という文章が、資産をもった男性のみを対象としていたことを意識し、その後60年代の公民権運動などで、all menは人種や性別、国籍、障害の有無、年齢などを越えた「全ての人」を対象とした概念へと進化したことを意識し、改めて同性愛者、海外からの移民に対してその概念が適応されるように強調します。

 特に、

Our journey is not complete until we find a better way to welcome the striving, hopeful immigrants who still see America as a land of opportunity
我々の旅は、努力し希望をもった移民を歓迎し、アメリカはチャンスに開かれた国だと信じてもらえるような施策ができるまで終わりません。

と強調したことは、同時多発テロ事件やリーマンショックなどでの国内雇用の喪失が課題になり、移民に対して門戸を閉ざし始めたアメリカの方針を転換することを意味する画期的な発言でした。
 そして、ここに書かれた America as a land of opportunity という表現をはじめ、differences、すなわち様々な人種や人々の発想や考えの異なる人々が集まることをアメリカの強さとするなど、アメリカの原点を語る、アメリカ人にとってポジティブな概念を象徴する言葉で就任演説は埋め尽くされていました。
 アメリカがアメリカの価値観を再認識し、現代に見合った形へと大胆に変革していこうという今回のメッセージ。本当にアメリカを変えることができるのか、彼自身が言っているように、道のりは長く、挑戦含みといえましょう。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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