ネルソン・マンデラの死、そして知る権利

ネルソン・マンデラの死、そして知る権利

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So, arrest us
なら逮捕したら?
(The Times 紙(南アフリカ共和国)より)

【ニュース解説】
ご存知の通り、先週他界した南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ元大統領の死を悼み、世界中の指導者が列席した追悼式がおこなわれました。

この新聞のヘッドラインは、そんな南アフリカで今おきている「国民の知る権利」を巡る政府とメディアの厳しい応酬のニュースです。

とはいえ、我々も、まずはアフリカ系黒人の人権を回復する闘争のなか、長い獄中生活の末、ついに南アフリカ共和国の大統領となり、昔年のアパルトヘイト(人種隔離政策)を撤廃したマンデラ元大統領の冥福を祈りましょう。
彼の追悼式に世界中の指導者が集まったのは、マンデラ元大統領が、アフリカ系の人々の権利を回復したのち、抑圧していた側の白人系の人々への逆差別を戒め、全国民の融和と和解を促し、新国家を運営していったことでした。

そんな彼が指導率いていた党は、ANC(African National Congress)です。

ANC の活動はアパルトヘイト体制下の南アフリカでは非合法扱いで、現在の大統領ジェイコブ・ズマ Jacob Zuma も ANC の活動家として長年投獄された経験を持つ、いわゆる第一世代を代表する指導者です。

そんな Zuma がマンデラ元大統領の追悼式でブーイングにあったのです。
“This is a period of mourning. None amongst us should ever use this solemn moment to disrespect any amongst us, whatever their personal views and grievances.” (追悼しているこの場で、我々誰もが厳粛なこの時間を汚すべきではない。例えどのような個人的な見解や不満があろうとも)。彼はブーイングに対して、このようにコメントしています。

Zuma 大統領への評価は、国民を二分しています。
彼は過去にも汚職疑惑があり、彼の蓄財への疑惑の目はメディアの取材の対象にもなっているのです。
そこで、問題となったのが、南アフリカ版の秘密保護法に匹敵する National Key Point Act の存在です。
Zuna 大統領が税金をいかに私的に流用しているかを報道するために、The Times が大統領の豪邸の航空写真を公開したのです。
すると、政府側は、大統領の住居を新聞に載せるのは、大統領の安全とひいては国家の安全を危険に晒す行為であると激しく反発。これ以上こうした行為が続けば、National Key Point Act への違反として対処すると新聞社に通告したのです。
それを受けて「じゃあ、逮捕すれば?」と、報道の自由という権利は断固守るべきというスタンスで、Times はこうしたヘッドラインを掲げたのでした。

秘密保護法が成立した日本で、マスコミがどこまで政府の動きを国民に知らせることができるのか。あるいは、国民の知る権利がどれだけ守られるのか、今日本人の多くが強い関心を持っているはずです。
そうした最中、マンデラ元大統領などによる自由を目指す闘争の末に成立した、新生南アフリカでのこの騒動には、考えさせられることがたくさんあります。
‘Transparency is one thing but this is not transparency; it’s nakedness in terms of security.”(透明性は一つの課題。しかし、これは透明性の問題ではなく、国家の安全を丸裸にする行為)と政府側は反論しています。

その南アフリカで、今年6月に、アメリカの財団の呼びかけで世界中の専門家が集まり採択されたツワネ原則(Global Principles On National Security And The Right To Information)は、そんな「国家の機密とそれを国民が知る権利」について、国家に対してより透明な監査機関を設置すべきなど、国が守るべき50項目の原則を採択しています。マンデラ氏の追悼、Zuma 大統領への報道、そしてツワネ原則が南アフリカで採択されたこと。この3つが同じ場所から世界に伝えられたことは、偶然の産物ではない、我々の未来へ警鐘を鳴らす象徴的な事象であったと、いえましょう。

日本でも、南アフリカでも、そして世界中で、この課題に人々が今心を痛め、そのバランスのあり方を、時間をかけて真剣に模索しようとしているのです。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。


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