「アメリカのビジネス文化では異例!Appleの謝罪」

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「アメリカのビジネス文化では異例!Appleの謝罪」


Apple CEO Tim Cook’s apology may defuse an aggressive campaign against Apple by China’s state media, but it has left questions for the company’s followers and customers.

(アップルのCEOティム・クックが謝罪したことは中国の政府系メディアのアップルへの激しい批判キャンペーンを鎮めるかもしれない。しかし、このことはアップルのファンや顧客にいくつかの疑問をなげかけた)
(CNN より)

【ニュース解説】
Apple の CEO の Tim Cook(ティム・クック)が、中国のユーザーに同社のサービスの不備について謝罪したニュースは、日本でも大きく取り上げられました。
事の起こりは、中国での Apple 製品の保証期間の対応が、アメリカなどと比較して充分ではないことに対し、中国の消費者を援護するキャンペーンを中国の政府系のメディアが積極的に展開したことでした。
事態の背景には、最近のアメリカが行った中国のサイバー攻撃に対する批判などへの、中国側の報復もあるのではないかという憶測もささやかれます。

CNN では Apple と中国のメディアとの、こうした最近のやりとりを dustup、すなわち喧嘩という表現で紹介し、他のメディアは以前のグーグルなどの中国での騒動と比較して取り上げていました。

よくアメリカ人は謝らないといわれます。
海外でビジネスをしている日本人に聞いても、日本人はまず謝ってから話し合うのに、アメリカ人は決して謝らないからやりづらいという愚痴を耳にします。
実際、アメリカのビジネス文化では、謝罪は余りポピュラーではありません。もちろん、明らかに過ちがあるときは謝罪するにしても、それは正に人の足を間違って踏んだときに謝るようなもので、責任の所在が曖昧な段階で謝罪することは、まずないといってもいいでしょう。

では、相手ともめたとき、アメリカ人はどのように対処するのでしょうか。
マネージメントのスキルとしては、どちらが悪くどちらが良いというスタンスに立って謝ったりするのではなく、そこに誤解があったことについて I am sorry と表明するというアプローチがよいといわれます。つまり誤解があったことを残念に思うと表明することで緊張を解き、そこから解決への糸口を見いだそうとするわけで、一方的にこちらからお詫びをするアプローチはとらないのです。

では、このニュースでの Tim Cook の表現はどうでしょう。
“We recognize that some people may have viewed our lack of communication as arrogant, or as a sign that we didn’t care about or value their feedback. We sincerely apologize to our customers for any concern or confusion we may have caused.”
(我々がしっかりとコミュニケーションをとらなかったことを傲慢であり、彼らの要望に対して真摯でなかったと感じた人々がいたかもしれない。そのことによって顧客の皆様が不快に思い、困惑されたことに対し、心からお詫びを申し上げます)

ここで、Tim Cook が Sorry ではなく明解に謝罪を意味する apologize という言葉を、そしてその前に sincerely という形容詞を付けて「心からのお詫び」を表明しています。
なるほど、これは正式な謝罪であり、異例ともいえる声明です。
通常は、深刻な事態に対する対応としては、apologize ではなく、先に説明した sorry のほかに regret(残念に思う)という言葉を使用することが多いアメリカのビジネス文化を考えたとき、この Tim Cook の声明は、明らかに中国の専門家のアドバイスを考慮し、中国の文化に合わせて作成されたものであることがみえてきます。

Tim Cook は、中国が官民一体となって Apple に挑んでくるリスクを回避しようと、明らかに「実」をとったのです。
これは、Apple にとってアメリカに次ぐ巨大市場で、「伸びしろ」も多く見込める中国でのイメージダウンを防ごうという配慮に他なりません。当然、尖閣問題以降日本が受けた経済的ダメージや、グーグルの中国からの撤退などといった前例を知っての判断に他なりません。

一年前、尖閣諸島の問題がクローズアップされる直前、私は福建省へ出張しました。
いつものことですが、中国に到着すると、Twitter が使えません。ほぼ毎日英語と日本語とでつぶやいている私は、中国に出張するときはこうした通信上の問題や事故を回避するために、私の友人にメールでつぶやきを送って、日本からつぶやいてもらうようにアレンジします。
廈門(アモイ)のホテルに到着し、Twitter に続き、私の書籍をよく出版する版元IBCのサイトをオープンしてみると、ホームページの中の Twitter の部分だけがきれいに削除されていました。

こうした官がメディアをコントロールし、民意に大きな影響を与えることのできる大国での、アメリカとは「異なったルール」を無視することのリスクについて、Apple は過敏に反応したのです。
表題のように、この Apple の対応は通常のユーザーにとっては不可思議だという疑問を投げかけたものの、少なくとも、この Apple の対応は、面子を重んずる中国政府の立場を尊重したことになり、緊張を defuse(和らげる)する効果はあったようです。

中国との今後の付き合い方を考える上で、参考になるかどうか。この Apple の対応に複雑な思いを抱く人は多くいるはずです。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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