一線を越え、時限爆弾を握るアメリカ議会

一線を越え、時限爆弾を握るアメリカ議会

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The ACA is law. End of story. The House Republicans’ attempt to nullify a duly-enacted law violates the norms of our constitutional system.

(オバマケアは法律。それ以上に何も話すことはなし。アメリカ下院の共和党の正式な手続きで法制化された法律を無効にしようという試みは、立憲国家としての根本に触れるゆゆしき行為である)
(CNN より)

【ニュース解説】
これは、CNNにて政治評論家トーマス・マン Thomas Mann が語った内容です。
最近、アメリカ連邦政府の活動が停止していることが話題になっています。
ご存知のように、アメリカ連邦議会 Congress の下院 The House of Representatives で多数派となっている共和党 Republicans が、予算を承認しなかったことで、アメリカの行政機関のサービスが影響を受け、機能停止に追い込まれています。国の安全など基幹部門の業務は継続されていますが、例えば国立公園のサービス、税務署の活動など、多くの政府機関の機能が麻痺しているのです。

さらに、議会ではアメリカ政府が債務をどこまで積むことが可能かという、債務の上限が法律によって定められているため、その法律を10月17日までに改正し下院を通さなければなりません。それが不調に終われば政府の債務不履行がおき、アメリカの財政に決定的なダメージを与える可能性まで指摘され始めています。そうなると、これは世界経済の問題へと発展します。

共和党は、民主党が立法化した the Affordable Care Act(ACA)、通称オバマケアなどを撤回しない限り、連邦政府の予算を承認しないばかりか、債務の上限の再設定にも協力できないと、今までにはない強い姿勢に終始しています。

民主党政権の頃、日本でもあった議会の捻れ現象が、オバマ大統領を追い詰めているのです。
アメリカの保守系の人々が伝統的に求める、個々人や地方の権利を重視し、連邦政府の権限を小さくするべきだという主張を支持する共和党と、社会での格差などを是正するためには、連邦政府の機能の強化も必要という民主党との対立が、ここまで深刻になったケースは今までにはありませんでした。
それは、リーマンショック以来沸々とたまっていた人々の不満が、社会を二極化させているためと多くの人は分析します。
アメリカには伝統的に孤立を求める保守勢力があります。海外から迫害を受けて移民してきた人々によって開拓されたアメリカであれば、自らの村や町の価値を自らで守ってゆきたいという人々が、そうした考えを支えています。それが最近では、ティーパーティ運動という独立戦争時の呼称を付けた右寄りの運動にも拡大しています。これが共和党にも大きな影響を与えているのです。

いわゆるアメリカ流ネオナショナリズムを代表するこれらの人々は、世界からアメリカが孤立しても、自らの伝統を守ろうと主張します。そして、オバマ大統領が、オバマケアという国民皆保険の制度を導入する結果、政府が大きくなることに強烈に反対し、政府の影響を受けない個人の価値を守ろうと、今までにない強硬な姿勢を貫いているのです。
そして、一度立法化したものを、こうした強硬な対応で白紙撤回させようとする動きは、憲法の理念に反し、議会の権限を濫用するものだと、Thomas Mann は指摘し、警鐘を鳴らしているのです。

日本でも、アメリカでも、また世界のあちこちで、ネオナショナリズムの台頭が云々されています。一つ気になることは、こうした運動が、自らの国の中での対立を煽り、世界の利益、グローバルなニーズと乖離を始めていることです。
世界的視野で大きく捉え、そこに個々の国のニーズを重ねるという発想から、個々の国の利益や主義主張を強調し、人類や世界がどうあるべきかという政治理念が希薄になりつつあることが懸念されるのです。

オバマケアの是非はともかく、世界経済への時限爆弾の起爆装置を握りながら、政府と対立してゆく共和党の背景に注目すれば、共和党内部にもさらに右傾化した議員がいて、党の手綱を握り始めている様子が見えてきます。共和党内にも、穏健派と保守派、更に強行派の大きな対立の目があるのです。
今回のアメリカ政府の機能停止という事象の背景には、日韓、日中関係を巡る日本の世論などとも共通した、大局のためにお互いに会話をすることすらできなくなっている社会と政治の分裂があることを、ここに解説しておきます。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。


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