日本が必要としている古典的なコンセプト”Rust to Riches”

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日本が必要としている古典的なコンセプト”Rust to Riches”

Using historical principles and the willingness to use capital money to rebuild older factories into efficient production units (just as the United States helped Western Europe and Japan get on their feet after World War II), a strong economy can be achieved.

(アメリカが第二次世界大戦後に西ヨーロッパや日本の復興に力を貸したように、歴史の真理に従い、古くなった工場を効率の良い製造ラインへと再生させるべく投資すれば、強い経済力を創造することができるはずだ)

Library Journalより

 

アメリカで骨董品店などの広告にrust to richesという言葉がよく使用されます。
これは、クラシックカーを磨き上げて、その価値を高めて販売したりすることから、錆び付いたものを安く買って、手入れをして高く売ることを意味する言葉です。
まだ日本がバブルに浮かれていた25年前、この言葉をタイトルとして使用した一冊の本がアメリカで出版され、話題になりました。
その本の副題は、The Coming of the Second Industrial Revolution「第二の産業革命の到来」。
それは当時問題になっていた、アメリカ産業の空洞化と、その結果としての輸入超過を分析した書籍でした。
アメリカ経済界が不動産や海外からの輸入商品を販売するアウトレットやショッピングモールなどに投資をしたことが、国自体が輸入超過に苛まれている原因だとして、それを克服するためには国内の物造りへの投資が必要だという、言ってみれば極めて単純な論旨がそこで語られていたのです。

しかし、そこで分析されていることがらを冷静に見詰めると、今の日本が置かれている状況があぶり出されてきます。
著者は、例えば工場などでの設備投資が不十分であることから、アメリカの製造業の質自体が衰え錆び付いてしまったことを指摘し、そうした機械や技術そのものへの投資によって、アメリカ経済はしっかり再生されるはずだと指摘したのです。
この書籍が出版された80年代終盤、日本は「Riches」の頂点にあり、アメリカそのものを呑み込む勢いで経済成長を遂げていました。
もうアメリカの時代は終わった、これからは日本の時代だと誰もが思っていたはずです。

ところが、その直後にバブルがはじけ、日本は暗黒の10年と呼ばれる低迷期に入ってしまいます。
逆にアメリカは、シリコンバレーなどに代表する先端技術への投資によって、錆び付いた経済が快復し、まさにRust to Richesを具現化していったのです。
その後ITバブルは一度崩壊したものの、そこで培われた技術が、今世界の標準になろうとしていることはいうまでもありません。

Rust to Richesは歴史的な教訓です。
例えば、20世紀は、ヨーロッパやアジアといった旧大陸が疲弊した時代でした。
ヨーロッパは2度の世界大戦で、アジアは旧体制から抜け出せないままに、列強の植民地化の脅威に晒されて、共に疲弊していました。
つまり、20世紀の旧大陸はRustだったのです。
その時代の例外が第二次世界大戦では躓いたものの、国家制度の近代化と欧米からの技術投入を迅速に行った日本でした。
日本は江戸時代末期からRust to Richesへの道標に沿った走行をはじめたのでした。

そして今、アジアでは多くの国がこのRust to Richesのマイルストーンに沿って、成長を続けています。
そのことによって相対的に日本は突出できなくなり、家電産業など一部ではRiches to Rust という、言葉を換えれば「繁栄から衰退」への脅威に晒されているのです。
問題は、錆び付いたときに、それをいかにRust to Richesの軌道に転換させるかです。
これを誤ると、日本は壮大な歴史のサイクルの中での「栄枯盛衰」の渦にのまれてしまいます。
以前この渦に呑み込まれたのが中国でした。中国は18世紀に国力の頂点を迎え、その後Rustへ向け下降し、国家をRust to Richesの軌道に乗せるまで100年以上の苦難に晒されました。

そうした兆候がないか冷静に見詰めてゆく姿勢が日本には必要です。
例えば、日本経済を牽引しているとされる自動車業界に目を向けてみます。
そこでは大手メーカーの部品調達先が国産ではなく、海外へと拡散をはじめている現状が浮き彫りにされてきます。
日本の底力とされる物造りの技術が衰退し、日本の製品ではなく海外の部品を調達しなければ車の製造ができなくなってきているのです。
系列そのものが内部から腐食しはじめ、正に空洞化の兆しが顕著になっているのです。
「物造りの日本」と政府やマスコミが我々に吹き込んでいる情報が、単なるプロパガンダになろうとしていることに、海外で指摘する人は多いものの、日本国内ではそれほど問題にはなっていないようです。
島国の中でのガラパゴス化によって、目隠しをされている中、確実に日本の競争力が衰退していることは、海外に一歩出て冷静に状況をみればすぐにわかることです。
こうした事実を把握することが、栄枯盛衰の100年サイクルに日本が陥らないかを見極める大きなバロメータとなるはすです。

「Globalizationの波に乗り遅れるな」と今、英語教育改革をはじめとした様々な試みがなされようとしています。
そこで知っておきたいことは、このRust to Richesの道標をしっかりと設定してゆくことです。
錆び付いている現状に絶望するのではなく、それをいかに磨いて復興させてゆくか。
たった25年前にその課題の深刻さを意識したアメリカ。
今は日本が、錆び付いている現状を把握しなければならない立場にたたされる番となっているのです。


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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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