「英語ではない。コミュニケーションこそ世界で生き抜くコツ」

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「英語ではない。コミュニケーションこそ世界で生き抜くコツ」


Walk-off win for Blue Jays. Munenori Kawasaki was the hero on Sunday afternoon, as his late ninth inning hit won the game 6-5 for the Toronto Blue Jays over the Baltimore Orioles.

(ブルージェイズはサヨナラ勝ち。川崎宗則は日曜日午後の試合で、9回裏のヒットでボルチモアオリオールズに勝ったヒーローとなった)
(Toronto Star より)

【ニュース解説】
シカゴ、セントルイスでの仕事のあと、今ニューヨークから車でモントリオールにはいっています。
最近日本でも、大リーグに移籍した川崎宗則選手がトロントで人気を博しているということが話題になっています。カナダにおいて、フランス語圏の最大都市モントリオールと英語圏を代表する都会トロントとはライバル意識も強く、モントリオールでは余りトロントのことを話題にはしません。
しかし、面白いことに川崎人気はこのモントリオールにまで届いてきます。
正直いって、彼の英語はひどいもの。では、なぜ彼はここまで人気者になったのでしょう。
それは、移民文化のダイナミックスの中で躍動するアメリカやカナダの人々の心の琴線にみごとにヒットする、彼のフランクで明るいコミュニケーションスタイルが原因です。

英語ができても、伏し目で曖昧な表現に終始したり、にんまりと笑みを浮かべ怪訝がられたりする多くの日本人に比べて、英語が下手でも堂々と、しかも限られた英語で最大限に自らを表現する彼のパフォーマンスが好感を持たれているのです。トロントだけでなく、シアトルやニューヨークの野球ファンが、川崎をオールスターにとコメントしたり、ニューヨークヤンキースに移籍させろとツイートしたり、ちょっとしたフィーバーです。

私は、長年日本人が世界とどのように仕事をし、コミュニケーションをするかというテーマで多くの企業などのコンサルティングを手がけてきました。ことアメリカ人だけではなく、シンガポールやインド、中東、さらにはヨーロッパ諸国にいたるまで、日本企業と仕事をした多くの人が、日本はあんなに素晴らしい技術を持っているのに、どうして海外の人とうまくコミュニケーションができないのかとコメントしている現実をみてきました。実力はありながら、海外とのやりとりでうまくいかず、膨大な逸失利益を産み出している現実も直視してきました。

川崎選手は、英語ができないためにメモを見て、大声でファンに感謝します。時には発音が悪く、意味がよくわかりません。しかし、メモを見たあと、彼は必ずそれを棒読みにせず、観客のほうを直視して、全身でコメントします。この率直なコミュニケーションスタイルが、アメリカやカナダのファンに喜ばれているのです。実は、英語が堪能な日本人でもこの率直さに欠けるために、相手から誤解されるケースは数えきれないほどあり、そうした意味でも川崎選手は日本人にとっての久方のヒーローなのです。

先週日曜日のデイゲームで、9回裏のサヨナラゲーム walk off win をヒットで演出した川崎が、選手に祝福されるた時の喜び方を、Munenori Kawasaki leaps into the arms of teammates as he rounds third. (川崎宗則は、3塁をまわるときチームメイトの祝福の輪の中に飛び込んだ)と同紙は表現しています。
このゲームに先立って、Sports Illustrated 紙は、川崎の特集を組み、彼がチームメイトに好かれる16の理由を取り上げています。
その中に、He honors his teammates with bows, hugs and head pats.(彼は、チームメイトにお辞儀をし、ハグをし合い、頭を軽く叩いて敬意を表する)という理由が挙げられ、そこには、手を合わせて軽く頭を下げたり、日本流のお辞儀をしたりしながらも、おおらかに選手と交流する川崎選手の様子が画像で紹介されています。

日本人からみると、恥ずかしくなるぐらい、ひょうきんで大袈裟で、ステレオタイプを生むのではと思われるくらい、おどけたジェスチャー。しかし、これくらいの大きな表現の方が、欧米では好感を持たれるのは事実です。それはその人の個性として積極的に受け入れられるのです。
ひどい英語で恥ずかしい。あんなおちょくったパフォーマンスなんてと思うのは、実は日本人だけ。海外と交流しなければならない多くの日本人が学んでほしい大切なコミュニケーションのコツを彼は無意識に演じています。

「英語ができないからといって黙っているなら日本にいてほしい。アメリカ人は片言でも必死でくいついてくる人を素晴らしいと思うし、外国語にチャレンジしている姿に敬意をはらう。だから、遠慮せずどんどん喋り、全身を使い、あらゆる方法でとけ込んできてほしいんです」と、ニューヨークに住むアメリカ人のビジネスコンサルタント仲間が、日本人の駐在員にそう言ってコーチングをしていたことを思い出します。
川崎選手には、今後こうしたパフォーマンスと実力、そして結果とのバランスで、さらにファンに受け入れられてゆくかどうかの試練があるでしょう。移民社会では、その人の学歴など過去の背景はまったくといって良いほど評価されません。そのときの実力だけが全てなのです。困難にチャレンジして結果を出せば、人種や国籍など関係なく祝福されるのです。
川崎宗則選手は、少なくとも、そんなアメリカ、そしてカナダの社会に受け入れられる出発点で、見事合格のお墨付きをもらったのです。
実は、その合格点にまで行き着けない日本人が大半であるという事実を、知っておきましょう。そう、英語ができるだけではだめ。コミュニケーション力の方が遥かに大切なのです。

今週帰国し、来週は日本から記事を送ります。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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