【2012年の終わりに。異文化のメカニズムを考えよう】

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【2012年の終わりに。異文化のメカニズムを考えよう】


Evolution stops here: Future Man will look the same, says scientist.

「進化は止まり、将来の人類は現代と同じ形態に」科学者は語る
(Mail On Online より)

 Intercultural communication という言葉があります。
 文字通り、それは異文化コミュニケーションを意味する英語です。Intercultural の inter は、お互いの「間」や「中」を表す接頭語です。

 似た言葉に、cross-cultural という単語があります。これも「異文化の」という意味ですが、この場合は、cross すなわち「交差する」という意味から「異文化の」という訳につながります。

 ニュースを我々が読むときに、この「異文化」という概念を常に頭にいれておきたいということを年の終わりにお伝えしたく、今回はヘッドラインなしに解説をしてみます。

 異文化の交流はよく2つの氷山で例えられます。
 氷山は海の上に浮かんでいるところだけ目視できます。しかし、海面下には氷山の大部分があり、海上に出ている部分を支えています。
 その隠れた部分こそが、文化であり、人を動機づける歴史や価値観、宗教観だというのが異文化の氷山のモデルなのです。
 この氷山のことを英語では cultural iceberg といいます。

 A という氷山と B という氷山があるとしましょう。
 A にも B にも海面下に多くの価値観や独自の経験が沈んでいます。でも、A から B をみても、また B から A を見ても、お互いのかくれた部分は見ることができず、水面上の白い山しか目に映りません。
 この海面の上にあるものこそが、それぞれの人の言葉や行動にあたるのです。「言葉での表現」を英語では verbal expression、行動は behavior となります。

 問題は、A の verbal expression や behavior は、A の海面下の価値観などに支えられているということ。言い換えれば、海面下の様々な要因に従ってアウトプットされているのが、言葉や行動なのです。それは B にとっても同じこと。
 A には A が喋り、行動していることはごく当然のことなのですが、B からそれを見たとき、B の所属する国や文化が A と異なれば、A と同じ海面下の氷山を共有できていないので、ときとしてAの態度や発言が不可解に見えてきます。なぜならば、B は水面の上に見えるA の行動や言葉を、B の水面下にある価値観や経験、そして常識をもって判断しているからです。

 これは、A が B をみたときにも起きる感情、そして判断です。
 そして、この判断によって、B は A を、そして A は B をジャッジするために、国際社会でそれが大きな誤解、摩擦へと発展するのです。

 例えば、自らの意見をどんどん表明し、自分のニーズを躊躇なく言葉にすることをよしとする文化背景を持つアメリカ人に日本人が接すれば、日本人は結局自分の意思をしっかり言葉にできないままにアメリカ人に押し切られ、「あいつら我々のいうことを聞こうともしない。結局自分たちが一番だと思っている」とアメリカ人のことを判断してしまうかもしれません。
 すると、同じときに、自らの感情を抑制し、相手を立てることをよしとする日本人の行動をみたアメリカ人は、自分の氷山に照らして、「日本人は自分の本当の気持ちを隠している信用できない奴らだね。これはきっと心の中で我々を見下しているからかもしれないよ」と感情を害しているかもしれないのです。
 しかも、お互いに cultural iceberg のメカニズムに気付かないままに。

 そう、英語力より、相手の文化背景を理解したコミュニケーション力が必要であるという理由は、ここにあるのです。

 そして、国際社会でのニュースをみるときも、この異文化の誤解のメカニズムを意識しておくことはとても大切です。
 相手の行動や発言に接して、「あれ?」と不可解に思ったり、「何故?」と憤ったりするとき、この氷山のメカニズムが作用しているのではとまず疑ってみることが、ニュースを正しく理解するポイントなのです。

 英語のニュースに接する意味は、日本人の氷山による価値観や判断によって綴られている日本語のニュースから一歩離れて、別の見方や、時には相手の氷山の中をのぞくチャンスに接することができることにあるわけです。

 21世紀は、インターネットの普及などで、人と人とがより身近に言葉によって交流することが可能になった時代です。しかし、その分だけ、この氷山の罠 trap あるいは落とし穴 pithall に陥り、思わぬ感情や意識の対立が生まれてしまうこともあるのです。お互いに善意を持ちながら、この iceberg の対立が故に、相手への不信感が生まれ、ビジネスが崩壊することも今まで以上に多くあるかもしれません。

 韓国の大統領選挙で、保守本流のパクウネ女史が大統領に選ばれ、日本も自民党政権が再び国の舵をとるようになって、2012年は幕を閉じようとしています。また、今年何度か取り上げてきたアメリカの大統領選挙で再選されたオバマ大統領は、今までの4年間は国民健康保険制度の構築や中東からの撤兵に、そしてこれからは銃規制の問題や経済の立て直しに取り組みます。

 中国も揺れに揺れながら、新体制に移行しました。
 こうしたそれぞれの国に変化が見えたとき、我々日本人には見えない「氷山の下に何があるか」といったアプローチで、解説を続けてゆければと思っています。

 どうぞ、皆様には良い新年をお迎えください。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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