温暖化と人の老化:人の意識の身勝手さ

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温暖化と人の老化:人の意識の身勝手さ


The world’s top climate scientists on Friday formally embraced an upper limit on greenhouse gases for the first time, establishing a target level at which humanity must stop spewing them into the atmosphere or face irreversible climatic changes.

(世界の気象学の権威が、金曜日に地球温暖化ガスの上限についてはじめて、人類のガスの環境への放出に関する目標値を設定しない場合、取り返しのつかない気象変化に見舞われる現実を正式に指摘)
(International Herald Tribune より)

【ニュース解説】
今、ロシアに出張しています。
モスクワから飛行機で東に一時間半ほど飛んだところに、二ジーナ・ノボゴルドという街があり、丘の上の城塞からのボルガ川の眺めが見事です。そこにある、あるフランス企業の研究部門のオフィスで、彼らが提携する日本人といかに仕事をするかというテーマで研修をするのが今回の仕事。それが終わるとモスクワに移り、さらにヘルシンキ、パリ、最後はバンコクへと移動します。

今、ヨーロッパでは環境問題のニュースをよく目にします。
国連の地球環境に関わる専門家が、先週発表した地球温暖化の現状が、想像以上に深刻だったのです。1970年代から現在までの温暖化ガスの放出量が、予想を遥かに越え、海面上昇、異常気象の頻度、生物環境全体に与える影響は、今後50年から100年で、さらに深刻になると改めて警鐘を鳴らしたのです。実際に平均気温も最大4.5度上昇するかもしれないと予測しています。

今出張で地球のあちこちを飛行機で移動していると、地球におきている変化が、丁度人間の老化に似ているなと実感させられます。
毎日出会っている人は、10年経っても別に顔や姿が変化したと実感しません。
しかし、10年ぶりに出会った友人には年をとったなという印象を持つものです。そして、自分自身はいつでも明日はまだ大丈夫だろうと、勝手に自らに言い聞かせて、保証のない安心を買い、不摂生を繰り返します。

毎日暮らしている我々の地球の変化への意識も、それに似ていると思うのです。百年前の人が現在にタイムスリップしたら、文明の進歩と共に、東京から見えにくくなった富士山や、空気そのものの香りなどに驚愕するかもしれません。

ここで面白い話をします。
それは、地球がその誕生から現代までの45億年の歴史の中で何度か Snowball Earth(全球凍結)になっていたという事実です。そのときの極地の気温はマイナス90度。赤道周辺でもマイナス50度以下となり、氷の厚さは海洋で1000メートル、地上では3000メートル近くに及びました。しかもその状態は、時には8000万年もの長きに渡ったのです。
最初に Snowball Earth を招いた犯人は、太古に地球に繁茂した藍藻類だといわれています。藍藻類が光合成 photosynthesis によって二酸化炭素を体内に取り込みます。そしてそのまま枯れ、死骸がプレートの動きに乗って移動し、その裂け目から炭化した二酸化炭素を持ったまま地中深く沈みます。その結果、数千万年、または数億年の時の流れの中で、地球上の二酸化炭素が減少し、温暖化とは逆の、寒冷化がおきたのです。

人類は、藍藻類より遥かに進化し、その結果地球環境を藍藻の影響などとは比較にならない早さで変えています。
ちなみに、Snowball Earth は地中に戻った二酸化炭素が、火山などによって空中に戻ることで徐々に解消されていったと考えられています。
地球の変化は確かに人類の感覚を凌駕した時間と規模でみてゆく必要があります。その変化の要に昔は藍藻類が、今では人類がいるというわけですが、人類は、本来なら一億年かけておきる地球の変動を1000年で起こしてしまいかねないかもしれません。人間も地球に生きる動物の一つ。ただ賢いというだけで、自滅の道を歩まない保証はどこにもありません。

President Obama’s science adviser cited increased scientific confidence “that the kinds of harm already being experienced from climate change will continue to worsen unless and until comprehensive and vigorous action to reduce emission is undertaken worldwide.
(オバマ大統領の科学関連のアドバイザーは、我々が既に経験している気象の変化による災いは、理にかなった積極的な温暖化ガス放出抑制への対応が世界規模でなされない限り、これからさらに深刻になるはずだと、コメントしている)

と、同紙はこのレポートを受けたホワイトハウスの反応を紹介しています。
地球温暖化を説く科学者は、世の中を煽り過ぎだという反論もあり、先進国と発展途上国、新興国との環境への意識の差も際立っているなか、この警鐘がどこまで実効ある制度に進化するかは不明です。
しかし、異常気象が続き、7年後には暑い夏にオリンピックを迎える日本も、より積極的なイニシアチブをとらなければならないことだけは、事実かもしれません。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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