世界中が取り上げた「異常気象」フランケンストーム

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世界中が取り上げた「異常気象」フランケンストーム


“Frankenstorm”: Worse than sum of its parts.

フランケンストーム:様々な要素が重なり状況が悪化
(Charlotte Observerより)

【ニュース解説】
 この新聞が発行されているシャルロットCharlotteは、アメリカ南部ノースカロライナ州最大の都市で、アメリカを代表する金融都市の一つとしても世界的に知られています。

 シャルロットは内陸にありますが、この州は東海岸に面しており、その沖合をSandy と名付けられたハリケーンが今週通過し、ニュージャージー州に上陸して東海岸に被害を与えたことは、日本でも報道されました。Frankenstormとは、このハリケーンについて説明した造語です。

 Frankenという単語で思い出すのは、フランケンシュタインFrankensteinのことでしょう。この単語は、遺伝子などを組み替えたり、複合したりして造り出すものを表し、例えばFrankenfoodといえば、遺伝子の組み替えなどで造られる新しい食物となります。

 もちろんこれは、正式な科学用語ではなく、フランケンシュタインからきたユーモラスな造語です。ちなみに、遺伝子の組み替えは、正式にはgenetic modificationなどという表現が適切です。

 では、なぜハリケーンSandyは、Frankenstorm(複合された嵐)なのか。
 話をノースカロライナ州の遥か北、カナダと国境を接する東海岸のメイン州Sate of Maineに移します。

 その昔、ニューヨークやボストンからの船が帆を揚げて北上するとき、常にアメリカの東海岸を南西から北東に向けて吹く風に帆を張って、追い風に乗って船出しました。メインの人々は、それをdown windと呼び、メイン州は北にありながら、船が「北に下ってメインにやってくると言っていました。
 その言葉のせいか、今でもメイン州の東海岸はDown Eastと呼ばれています。
 もちろん、ヨーロッパとアメリカ東海岸を帆船で航海していた時代、この風をしっかりと理解して航行することが必要で、イギリスなどからニューヨークに向かった帆船が、Down wind に阻まれてニューヨークに到着せず、遠く北へとそれてしまったことがよくあったのです。例えば、17世紀末、まだイギリスの植民地であったにニューヨークで起きた反乱を制圧するために、イギリスから派遣された植民地長官の船が北に流されて到着が遅れたことが原因で、事態がさらに深刻になったことがあったことなど、事例を挙げればきりがありません。

 通常、ハリケーンもこの気流に乗って東海岸を北上し、次第にカナダの東へと去ってゆきます。ところが、今年はdown wind がカナダの東にあるグリーンランドに居座る高気圧が強すぎて思うように吹かず、ハリケーンの北上を妨げたのです。こうしてハリケーンSandyはアメリカ本土に向けて迷走をはじめ、温帯低気圧になったあとも、アメリカ大陸大陸を偏西風westerliesに押されてやってくる前線と影響し合って、アメリカ東海岸に豪雨や暴風をもたらしたのです。
 すなわち、複合された要因によってハリケーンSandyはFrankenstormになったというわけです。

Down windはその昔、船乗りに順風tailwindと逆風headwindを与えていました。しかし、皮肉なことに現在はこのdown wind に乗って、東海岸各地に点在する産業都市の汚染物質が、森と湖が多く海洋資源も豊富なメイン州に飛んできます。メイン州の大気汚染の7割はこのdown windによってもたらされるといわれているのです。
 そんな大気汚染が異常気象の原因で、今までにはおこらなかった気象現象が起きているのは、今回のハリケーンのケースだけではないでしょう。台風などにまつわる様々な普通にはない気象現象は、日本でもよく報道されています。
 地球温暖化や、環境問題に関係した気象の話は世界共通というわけです。

 ちなみに、ハリケーンには、勝ち気な女性、あるいは「男を尻の下にしく」強い女性などのことを皮肉ったユーモアとして、昔は女性の名前がニックネームとして付けられていました。しかし、そのことが女性を卑下し差別することだとして、最近では男女の名前が平等に使用されるようになりました。Sandyの場合は男性とも女性ともとれる名前です。

 新聞などの見出しは、簡潔な表現が必要なため、このヘッドラインのように、造語や省略した表現がよく使用されます。英字紙も例外ではなく、そのために英語を学ぶ人にはときには難解に思えたりします。

 この見出しにある、Worse than sum of its parts.というセンテンスは、more than the sum of its partsとして使用される慣用句からきています。意味は、「一塊になって何かをすれば、その構成員の総和よりも大きな力となる」ということ。ここでは、ハリケーンの威力が様々な要素が絡まりさらに大きくなって、人々の脅威となったことから、moreやgreaterといった前向きの形容詞の代わりにworse が使用され、Frankenstormの雰囲気と呼応させたのでしょう。
 なかなか気のきいたヘッドラインといえましょう。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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