大統領選のディベイトが日本に語ること

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大統領選のディベイトが日本に語ること


Candidates try to close the sale. In their final debate, President Obama cited terrorist networks as the top threat, while Mitt Romney pointed to a nuclear Iran.

双方の候補とも、自らの売り込みに終止符。オバマ大統領はテロリストの攻撃が最重要課題、ミット・ロムニーはイランの核武装の脅威を指摘
(CNNより)

【ニュース解説】
 最後になる3回目の次期大統領候補の討論会は外交問題に焦点があてられました。外交問題となれば日本にとっても注目すべき討論です。しかし、約1時間半の討論の中で、Japan という単語は、司会者から一度出ただけ。それも、イスラエルのことを語るときに、「日本と同じようにイスラエルを同盟国として…」の一言だけでした。

 討論の中心は中東問題。そして次に中国との関係。中国との関係では双方の候補とも、中国を大切なパートナーであると同時に競争相手として強く意識していることが印象づけられました。両候補とも中国を脅威の対象ではなく、パートナーにしてゆくために要求したいという意識で、経済問題でのフェアプレイを中国に強く促していました。

 理由は簡単です。アメリカは今、自国の経済問題の立て直しに必死なのです。その視点に立った上でのアメリカの外交上の課題 foreign issue は、中東の安定によってテロリズムの脅威が沈静化し、中国との貿易不均衡や通貨価値の不均衡の解消などが最優先課題だからです。

 日本への対応は、そうした課題の向こうにあり、その課題によっては日本への対応も左右されるということになるのです。

 実は、日本同様、ヨーロッパの通貨問題、ロシアとの関係についても全く話題にはなりませんでした。このディベイトの内容から、我々はアメリカの本音を考えるべきです。

 今、世界はそれぞれが自らのことに忙しくなってきています。ヨーロッパはEUの存続に、アメリカは自国の経済問題に、中国は共産党サバイバルなど様々な問題に。世界が必死でそれぞれの問題に対応するなか、日本は中国、韓国、アメリカというトライアングルの中で自主性を発揮できずにいるわけです。英語でいえば、autonomy と spontaneous solution という課題を日本は突きつけられています。

 autonomy とは自主性を意味する言葉で、自らのことを自らが考えてしっかりと判断することを示します。そして autonomy を最もしっかりとサポートする言葉が、spontaneous solution、すなわち自らが進んで解決方法を提示するという対応です。この課題に対して、日本の外交政策や一般の世論がいかに非現実的 reckless なものかを今考えるときです。

 領土問題も、経済問題も、日本の独りよがりになり、同盟国とされるアメリカの世論も白々とそれをみている現実を、我々はしっかりと理解するべきです。両候補がアメリカの国民の前で論戦を展開している同じときに、日本からスキャンダルで叩かれた法務大臣辞任のニュース。象徴的な対比です。

 討論の結果は、ボクシングに例えれば、Obama landed more punches on Romney’s face.(オバマがロムニーにたくさんのパンチを)というところでした。両候補の拮抗している状況は変わりませんが、多少オバマ大統領に追い風となったことは否めません。

 前回も簡単に解説しましたが、アメリカでは、3回のディベイトのたびにCNNなどを中心に、その詳細な分析を行い、評論家や一般市民も参加して感想を述べ、討論の結果がどうであったかという様々な統計が公開されます。この国民参加の大統領選挙の様子には、様々な矛盾を抱える国とはいえ、さすが民主主義の旗手だなと感心させられます。

 これから残りの2週間、両候補とも、swing voters、あるいは uncommitted voters と表現される、まだ意思表示をしていない有権者の獲得に奔走します。特に、大統領選挙は一般投票 popular vote によって、大統領と副大統領のペアを選ぶ選挙人 elector を選ぶという2段階の制度によって実施されます。従って、elector が多くいる規模の大きな州をいかに効率的に獲得するかが、勝敗の分かれ道となります。

 ディベイトのあと、例えば、オバマ大統領は、東海岸から西海岸まで2日間で8カ所も遊説やテレビ番組などへの出演のために飛び回ります。3回の公開討論も過酷であれば、その前後のキャンペーンも相当なエネルギーと体力が要求される長丁場です。大統領とは、そうした全てに対応できるタフさ toughness を国民が見極めるというわけです。

 今回のように拮抗した選挙の場合、CNNのヘッドラインにある closing sales は、実際の選挙直前になりそうです。そしていずれの候補が選ばれるにせよ、今までのアメリカ依存路線があれば、中国や北朝鮮などとの問題は解決という方程式だけでは答えが出ないことを、日本の識者も知っておくべきです。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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