日本文化「Kabuki はアメリカの政治用語 !?」

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日本文化「Kabuki はアメリカの政治用語 !?」


Kanzaburo Nakamura XVIII, a star of Japan’s Kabuki theater who broke from tradition to bring that stylized art form to younger generations and audiences overseas, died on Wednesday in Tokyo. He was 57.

伝統を打ち破り、若い世代や海外の観劇者に様式化した芸術の型を持ち込んだ日本歌舞伎界のスター18代中村勘三郎が、水曜日に東京で逝去。57歳だった。
(New York Timesより)

【ニュース解説】
 新聞などでのお悔やみ欄、死亡記事のことを英語で Obituary といいます。
 ニューヨーク公演で英語をまじえた斬新な歌舞伎を披露した中村勘三郎の死亡記事は、先週日本と同じ速さでニューヨークタイムズに掲載されました。

 英語圏の人々は、ダイレクトでオープンなコミュニケーションを好みます。いきなり英語で聴衆に話しかけた中村勘三郎のオープンなスタイルは、ニューヨーカーにも好感をもって受け入れられていました。
 The cause was respiratory failure,(死因は呼吸器官の疾患)と同紙は解説しています。内蔵などの不全をいうとき failure(通常は失敗という意味)を使用します。

 「中村勘三郎は、アメリカ人からみれば short guy、つまり背は低かったのに、ダイナミックで活動的なパフォーマンスが印象的。それが、ニューヨーカーに好感をもたれた理由だよ。彼の公演はいつも満席だったね。アメリカ人には、ブロードウェイミュージカルにも共通点がある歌舞伎の方が、能より受け入れられ易いんです」
 ニューヨークに住む友人で、日本の演劇に詳しい John Gillespie ジョン・ギレスピー氏は私にそう語ってくれました。

“Noh has a history of patronage by those who hold power. But it is the common people who have always supported Kabuki.”
(能は権力者によって保護されてきた歴史があります。しかし、歌舞伎は庶民が常に支持してきた演劇なのです)と、ニューヨークタイムズのインタビューに中村勘三郎が以前答えていたことが、紙面に紹介されていましたが、それはギレスピー氏のコメントにもつながります。
 ちなみに、ニューヨークタイムズでは、中村勘三郎のことをMr. Kanzaburo として記事を書いています。ファーストネームにMr. をつけるのは変ですね。
 しかし、これは勘三郎の名前が襲名されているもので、ニューヨークでは彼のことを「カンザブロウ」として知られていたことに起因するのです。

 ジョン・ギレスピーと国際電話で話をしているとき、歌舞伎についてもう一つ面白い事実がでてきました。
 それは、一件何の関係もないオバマ政権が頭を抱える「財政の崖」についての話題です。この問題を巡って民主党と共和党が激しく論争をしていることは、前回詳しく紹介しました。
「Kabuki という言葉は、アメリカでも良く知られていてね。今のアメリカの政治を風刺するときにも使われている」
 ジョン・ギレスピーはいうのです。
 民主党と共和党の「財政の崖」Fiscal Cliff を目前にしながらの丁々発止(ちょうちょうはっし)のありさまが、正に「歌舞伎」なのだというわけです。
 どちらも、本音を出せずに、建前で相手を攻撃している様子が、歌舞伎のように「型」にとらわれた大掛かりな伝統的な芝居のようだというわけです。
「最近、Current American politics is just like Kabuki Theater(今のアメリカの政治は歌舞伎のようだ)というようなコメントをあちこちの政治評論家やジャーナリストが紙面でやっているんだよ」
 これは面白い表現ですね。

 ところで、英語を勉強する人が、どのような英文を読めば英語力が上達するかとよくきいてきます。
 そんなとき私がいうのが、日本関係の文章を多読するのも一案と答えます。正にこのニューヨークタイムズの記事などがそれにあたります。
 日本をテーマにした記事や本なら、少なくとも概念や記事に書かれている事柄の背景を知っているため、読み易く、読むスピードも速くなります。つまみ読みをしているだけでも、気がつけばかなりの量の英文に目を通していることにもなるのです。
 日本関係の書物を books on Japan といいますが、別に日本をテーマにした本だけにかぎらず、例えば歴史や世界経済などの本に目を通して、最初のページから苦労して読まずにインデックス、つまり索引から Japan などといった項目を引き出して、その記事を読めば、はるかに簡単に読めてかつ英語力や会話での話題を養えるはずです。
Mr. KanzaburoのObituaryはそうした意味からも是非目を通してみたい記事といえます。そしてその話題を今度は外国の人との会話で活用すればなおさら効果的。
 その時に、是非 Japan’s political battle is just like Kabuki Theater などと言ってみると、より味わい深い会話ができるかもしれません。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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