温暖化が変える、アメリカの経済地図

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温暖化が変える、アメリカの経済地図

Rain, though welcome, brings fire hazards in drought.

(とはいえ、雨は防火施設が干上がっている以上、歓迎なのだ)

LA Timeより

 

気になることがありました。
今年既に3回アメリカに出張しているのですが、冬から春にかけて、帰国便の窓からみえた、アリューシャン列島の島が茶色だったのです。
北極圏に近い、これらの島々は冬ともなれば通常氷雪に覆われ、真っ白でした。それが、今年は雪がなく、茶色い地肌だけが見えていたのです。

It was unusual. と、5月末にニューヨークで出会った科学者の友人にその体験を報告しました。
地球温暖化を目の当たりにしたからです。
So, how can we fix it? (この状況をどう解決すればいいだろうね)と尋ねたところ、彼女は、It is too late. Just pray. (もう遅すぎるのよ。今となってはただ神に祈るだけ)と答えます。
彼女はMITで教鞭をとる科学者で、この夏グリーンランドで温暖化についての本格的な調査を行おうとしている環境問題の専門家です。
ホッキョクグマが絶滅の危機に瀕していると、よくニュースで報道されます。
あの飛行機の窓からの光景は、それが真実であることも実感させられます。

アメリカの場合、こうした気象の変化が最も深刻なダメージを与えるのは、元々空気が乾燥し、内陸は気温が高めのカリフォルニア州です。
慢性化するカリフォルニアの水不足は今アメリカ中の話題となっています。
実際、カリフォルニア州の新聞をあければ、ほとんど毎日、どこかで干ばつや水不足の記事に出会います。
地球温暖化の影響で降雨量が減少している中、農業用水などの需要をおさえることは不可能で、受給のバランスが崩れているのです。
元々、涸れた大地を灌漑用水網によって農業用地にし、作物を生産してきた同州は、単に農業だけではなく、住宅地へもそうした水の供給を促進するインフラが整備されていました。
しかし、この水不足は、これらのインフラが事実上機能しなくなることを意味しています。
さらに、毎年のようにおこる山火事も無視できません。
In Northern California’s forests and along the Eastern Sierra, summer thunderstorms bring rain, but they also bring lightning, which can ignite major fires.
(東シエラ山脈に沿った北カリフォルニアの森林地帯を夏に見舞う雷雨は、雨の恵みになる一方、雷が山火事の原因にもなるのだ)
と同紙は、このヘッドラインについて解説しています。

First of all, in future, people will move to the chilly place like Main.
(まず、メインのような寒冷地への人口移動が近いうちにおこるんじゃないかしら)
彼女がいうには、温暖化が進めば、カリフォルニア州には住めなくなり、北へと人口移動がおこるというのです。
例えば、メイン州のようにアメリカの中でも寒冷地として知られるカナダ国境沿いの地域の人口が増加するのではと。

彼女と夕食を共にした翌日、ニューヨークで別の友人とお茶を飲んだとき、彼は近いうちにシアトルに引っ越すんだといいます。
「君の仕事だと、カリフォルニアのほうがいいんじゃない」と尋ねると、
「この慢性的な水不足をみてもわかるように、せっかくカリフォルニアに家を買っても、いずれ暴落するんじゃないかって思うんだよ」
という答え。昨日の科学者のコメントを裏付ける話に思わずぞっとしたものでした。

アメリカのGDPの13%を占め、世界ランキングでも州単独で9位に位置する経済力を誇るカリフォルニア州。
この巨大な州の地価、そして経済そのものが、近未来に温暖化の影響から暴落するのではと危惧する人々は少なくありません。
西海岸で相対的に人気が浮上しているのが、北西部にあるワシントン州。雨が多く、マイクロソフトやアマゾンなど、ハイテク系の巨大企業もそこに本社をおいています。

地球温暖化による気象の異変。これは、今では我々の生活を直撃しかねない脅威となっています。もちろん、毎年のように日本を見舞う異常気象をみても、それがいかに深刻か理解できるまずです。

異常気象の影響がアメリカ経済の核であるカリフォルニア州を直撃するX dayはいつなのか。「不気味な雲行き」という表現は、笑えないジョークといえそうです。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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