「オリンピック東京招致への世界の論調」

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「オリンピック東京招致への世界の論調」


Beyond Brazil, another, much more suspenseful Olympic race is brewing: who will win the right to host the 2020 Games?

ブラジルの向こう、もう一つの未完のオリンピックレース。どこが2020年大会の招致国として勝利するのか?
(タイム誌より)

【ニュース解説】
 オリンピック招致の話題が、IOC 関係者の東京訪問で注目を集めています。
 オリンピックがもたらす経済効果等を期待する人と、無駄な出費だといって反対する人とが交錯するなか、世界は候補地として東京をどうみているのでしょうか。

 タイム誌によれば、東京が最有力候補であるとのこと。
 同誌はミシガン大学のスポーツ・マネージメント分野の権威であるジマンスキー教授にインタビューをしています。
 You can trust the Japanese to get everything on time and to budget. You can be sure they will run an efficient, safe Games and there will be no risks involved. You can be sure all the technology’s going to work.?So I think it’s big pluses on those fronts.
(日本人は全てを予算に適合させて時間通りに進め、運営も効率的で安全面からみてもリスクがない。テクノロジーにしっかりとバックアッップされ、これらの面からも極めて有利なのでは)
というのが教授のコメントです。
 賛否両論(Pros and cons)を検討した場合、ネガティブなポイントは二つ。一つは常に話題になっている招致に向けた比較的低調な世論です。

The first is “a relatively low level of support, only 66% in favor, but that’s well behind their rivals. The IOC only wants to go places where they will be welcomed with adulation.
(最初にあげられるのが、比較的低い66%という支持率で、これは他のライバルより低いのです。IOCは、べったりと歓迎してくれる場所を常にもとめているので)

 ここにある adulation とは、こびるように賞賛してくれることを意味する言葉で、インタビューを受けたジマンスキー教授の IOC への皮肉でしょう。IOC は過去にもオリンピック招致などを巡る賄賂などのスキャンダルにまみれていたことを暗に意識した発言かもしれません。

 そしてもう一つのリスクは地震災害の可能性だと指摘しますが、そればかりは予測不可能な可能性だと彼はいいます。
 しかし、記事の中で、また他の紙面などでも、東京は既に1964年にオリンピックを開いているという指摘があり、それが他の候補であるイスタンブールやマドリードに有利に働くのではという論調も目立ちます。

 では、二番手のトルコ最大の都市イスタンブールはどうでしょう。
 イスタンブールも東京と同様、過去に何度か立候補し、落選してきました。
 トルコの場合、イスラム圏で初のオリンピックをと気合いがはいっているのみならず、いわゆる中東の中でも有力な新興国として、財政基盤も整いつつあることが強調されます。
 トルコは、第一次世界大戦の後に崩壊したオスマン帝国から共和制に移行し、その後疲弊した国家の再興に注力してきました。
 最近そうした努力の結果が実り、とかく立ち後れたイスラム圏の国だというイメージを払拭しようと懸命です。特に何年も前から EC に加盟し、晴れて先進国の仲間入りをと、国際社会に強くアピールしてきた経緯も忘れてはなりません。
 しかし、同国は例えばトルコ南西部に多く居住するクルド人を巡る差別問題などを抱え、イスラム社会全体の右傾化の影響もあって、EC との溝は埋まってはいないのです。おまけにギリシャにはじまったECの財政危機の影響もあって、トルコにまでECを拡大することへの議論自体が色あせているのが現状です。

 では、オリンピックはどうかということになれば、マドリードと共に、イスタンブールはヨーロッパ圏ではないかという議論に左右されてしまいます。ロンドンでオリンピックを開催したばかりなのに、リオデジャネイロの後にまたヨーロッパにオリンピックを招致するのはバランス上問題だといわれるのです。
 このあたりにイスラム圏とヨーロッパ圏との狭間におかれているトルコの微妙な立場が見え隠れします。

 さらに、2020年には、ワールドカップに次いで大きなイベントとされるサッカーのヨーロッパ選手権がイスタンブールで開催されることとなっていて、オリンピックをそれに加えることは行き過ぎではという批判も飛び交っているのです。

 そして3番手のマドリード。ここのアキレス腱は何といってもスペイン自体の財政危機です。
 こうした環境から東京が今回は有利ではというのが、欧米のマスコミの見方のようです。
 ただ、オリンピックの招致の結論は、最後の最後までわかりません。
 日本の場合、政治の上でも、スポーツ選手一人一人をとっても、どれだけ密に海外の人とビジネスや試合を越えた深い友人となり、コミュニケーションをしているかという課題が残ります。招致などに必要な人脈構築の上で、常に不利な立場にあるのです。それを克服し、東京でオリンピックが開催されるには、さらにいくつかのハードルがあるかもしれないのです。

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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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