
ぬいぐるみと多様な価値観
第93回:サンリオの株主総会から学ぶ多様性の意義
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(1)わたし的にはぬいぐるみがいいです!
今回の冒頭の特集は日本ではまだ殆ど報じられていない、しかも世の中をガラリと変えてしまうかもしれない情報が山盛りだったので、この多様性のコーナーではできる限り気楽に読めるホノボノした内容をお届けしよう。
さて、6月の日本は株主総会シーズン。
各社あちこちで株主総会を開催し、参加された方々の声がインターネット上で話題になったり、ニュースになったりしている。
その中に1つに、とても可愛らしいニュースがあった。
6月26日に開催された、サンリオの株主総会での出来事だ。
10歳くらいの女の子が株主質問に立ち、
「(株主)優待がタオルばっかりなのでタンスに入りきれなくなりました。
わたし的にはぬいぐるみがいいです!」
と堂々と辻信太郎社長に訴えたという。
この少女は会場にいたみんなから拍手喝采を受け、「これが今回のサンリオの株主総会のハイライトだった」というツイートが各所でニュースになった。
皆さんもご存知の通り、サンリオはあのキティちゃん(正式名称はハローキティ)の会社だ。
その他数多くの女児に人気のキャラクターグッズの販売やショーの公演、サンリオピューロランドの運営などを手がける。
そんなわけでサンリオは毎年、株主総会の当日にピューロランドを株主に無料開放しており、関係者によると「株主が小さなお子さんを連れて(株主総会に)出席することもよくあることです」とのこと。
とにかくこの少女の質問によって、それまで会場を覆っていた張りつめた空気は一変したという。
ちなみに、サンリオ株は2014年5月22日に業績をけん引してきたラインセンス事業から物販ビジネスへの戦略転換などで嫌気がみられ、株価が急落。
年初来安値の2410円をつけた。
これは1月の年初来高値(4675円)からほぼ半減の低迷ぶりであり、会場にはかなりの緊迫感が漂っていたと思われる。
それが少女の質問によって一変。
ほんわかムードになったという。
ツイートした株主は、
「(いっしょに来ていた父親に)何も聞かず正式な質疑ルール通りに発言してて凄かったわ」
と、女の子の態度が立派だったとも書いている。
そういうしっかりした姿勢は、真面目な投資家たちからの共感も得やすくなるので、なおさら少女の言葉がみんなの心に響いたのかもしれない。
一方、「小さな株主」の意見に、辻社長もきちんと
「次回はぬいぐるみやりたいです。やらせましょう」
と前向きに答えたとのこと。
当然だ。
しかも、よくよく考えてみると、株主限定モデルのキティちゃんなどあって当然と言えるわけで、今まで選択肢にもなかったことの方が驚きと言えるだろう。
普通に考えて、とても良い質問だったわけだ。
一連のやり取りを受けて、インターネット上には、
「うーん、これいいな~。(^^)ほのぼのする」
「サンリオならではの光景かも…確かに優待専用のぬいぐるみとかのほうが喜ばれるかもしれませんよね」
「子どもの意見だからってなめてかかってないところがさすがアミューズメントって感じするな」
などと、辻社長とサンリオへの好感度もアップしているようだ、と報じているニュースもある。
〔ご参考〕
●サンリオ総会で10歳女の子が堂々意見
「優待はタオルでなくぬいぐるみを!」 に社長前向き
http://www.j-cast.com/2014/06/27208994.html
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(2)ぬいぐるみと多様な価値観
このニュースは、多様な価値観や考え方に耳を傾けたり、目を向けることのメリットや意義を考えるうえで、とても参考になるだろう。
一般的に、真面目で緊迫した雰囲気の漂う株主総会で、主に投資家のおじさんばっかりが質問していたら、
「優待は、タオルじゃなくてぬいぐるみが良い!」
などと発言する人はまず出てこない。
よほど特別な状況が出来上がっていれば別だろうけど、それでも、他にある重要な議題を考慮すると、なかなかしにくい質問だ。
また、サンリオ側から、
「今後、株主優待にはタオルだけでなく、ぬいぐるみも選択肢に加えます」
などと新たな発表があったとしても、それが拍手喝采で受け入れられるようなシチュエーションには、まずならないだろう。
下手すると、
「そんなこと、どうでもいい!!!本業をちゃんとやれ!!!」
などと怒る株主まで現れるかもしれない。
サンリオ側からも、なかなかそう簡単には言い出し難い話題のような気がする。
それが、この少女の一言で一変した。
よくよく考えてみれば、少ない費用で会社にも株主にも一定の恩恵をもたらす普通に優れた提案だ。
まぁ、確かに投資家のおじさんがぬいぐるみをもらったところで、本人はタオルとさほど違いを感じないだろうけど、自分の子どもや親戚の女の子とか近所の子などにそれをプレゼントしてあげた時、タオルの何倍も喜ばれたりすれば、サンリオの株主やってて良かった…となる可能性もある。
そんな優れた提案も、おじさんたちだけだったらずっと出なかったかもしれない。
いや、実際これまでその少女が質問に立つまで、過去何年間もサンリオは株主総会を開いているが、今の今まで出てなかったのだ。
でも、だからといって、おじさんたちの頭が悪かったとか、発想力がなかったわけじゃない。
サンリオ側も株主側も、おじさんたちはおじさんたちなりにいっぱい真剣に考え、真面目に総会の準備をしてきている。
しかし、おじさんたちは真剣で真面目であるからこそなおさら、おじさんたちの間で共有される一定の価値観や考え方に従ったことしか考えないし、発言もしなくなっていってしまうのだ。
そして、気づかないうちに視野が狭くなる。
しかも、一定の価値観しかない環境では、偏狭なモノの見方や考え方しかできなくなることが、その場のルールや流儀などと認識されて、まるで良いことのように考えられていたりもする。
最悪だ。
そんなことで未来を切り開く新しいアイデアや、より良い課題の対処法など出てくるわけがない。
でも、真剣で真面目であるからこそ、そうなってしまう。
だから、どうしようもない。
しかし、そんな最悪の状況を一変させる力が「多様性」にはある。
実際、今回このサンリオの総会で、おじさんたちだけの一定の価値観にガンジガラメに縛られた環境ではなかなか出てこない優れたアイデアが、一人の少女によってもたらされた。
その少女が格別頭が良かったとか、天才だったというわけじゃないだろう。
ただ、おじさんたちとは異なる価値観や考え方を持っていた、というだけだ。
つまり、その少女が質問に立ったことで、現場に「多様性」がもたらされた。
そして、その結果、誰とも言い争うことなく、誰も傷つけることなく、むしろ、その場にいたみんなをほのぼのとした気持ちにさせ、さらに、その場にいなかった広く世間一般の多くの方々にも、ニュース等を通じて良いイメージを広めることができた。
こんなに「多様性」のメリットや意義が分かりやすい事例も、なかなかないんじゃないだろうか?
また、こういう現象は別にサンリオの株主総会に限ったものではない。
間違いなくいろんな場面で、同じような出来事が起こる可能性はいくらでもあるだろう。
歴史的な大発明や大発見の多くは、一定の専門分野の価値観や考え方や常識では、それまで思いつかなかった新しいアイデアが、ひょんな切欠で外部からもたらされた時に生まれていたりするものだ。
だから、こんなの馬鹿げているとか、前例がないとか、そういう偏狭な考え方に縛られない方がいい。
できる限り、異なる文化や価値観から出てくるアイデアにも耳を傾け、目を向けてみた方が、最終的にはより良い結果につながることの方が、たぶん多いはずなのだ。
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「多様性のもたらすもの」のコーナーでは、より良い日本の未来を築くうえで、役立ちそうな発想や情報を織り交ぜながら、ニューヨークの最大の魅力である「多様性」について感じたことや思っていることを書き綴っていこうと思います。
また、逆に、人口の98%以上が日本人であるため、ニューヨークのような「多様性」が社会に見られない日本だからこそ持つ長所や強みなどについても取り上げていきます。
いずれにしても、日本の中にいると気づかなかったり、見過ごしがちなアイデアや視点を少しでもお届けできれば良いかなと思います。