チャーリー・パーカーの命日にアメリカの伝統を思えば…

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チャーリー・パーカーの命日にアメリカの伝統を思えば…

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I sat there by myself, tears coming out of my eyes, feeling holy, thinking of the last time I was together with him. It was on 10th Street. We both got stripped naked, and he took the saxophone out—he was so far gone I thought he was going to drop dead. He didn’t know how sick he was…. We were playing together naked. He would have killed me if I didn’t go along with him in his whim.

(葬式のとき)私は涙を流しながらそこに座っていたよ。胸が詰まったよ。奴と最後に一緒だった時を思い出した。あれは 10丁目の路上。奴と一緒に素っ裸になって。あいつはサクソフォーンをとりだした。正気じゃなかった。そのまま死ぬんじゃないかと思ったよ。奴自身、自分がどれだけぼろぼろだったか気付いてはいなかったがね。二人で裸のまま演奏した。もし奴の狂気に付き合わなかったら、きっと殺されていたかもしれないよ。

バイオリニストTeddy Brume の回顧録より

 

61年前の 3月12日、一人の天才が 34年の短い生涯を閉じました。彼はニューヨークのホテルの一室で、テレビをみながら亡くなりました。

この文章は、Teddy Brume テディ・ ブルームというバイオリニストが、そんな彼と最後に一緒に演奏をしたときの思い出を綴ったものです。アメリカの音楽史に革命をおこした Charlie Parker チャーリー・パーカーの死は、その 25年後にジョンレノンが暗殺されたときと同じように、大きく報道され、ファンが涙したのです。

 

チャーリー・パーカーは、サクソフォーンの演奏をもってジャズを変革しました。主旋律のコード進行にのせて高度な技術で自由奔放、エネルギッシュにアドリブを展開し、人々を魅了したのです。彼は当時バードというニックネームで知られていました。夭折の原因は、麻薬とアルコール中毒という破滅的なライフスタイルによるもの。肝臓も胃もぼろぼろになっていながら、彼はそんなライフスタイルを変えませんでした。

彼の演奏はリズムに乗って流れるように上下します。激しくも洗練された超絶的な技巧をもち、他の人には真似のできない即興 improvisation で世界中の人々を魅了したのです。ジャズのアドリブが今のような形になったのも、彼の演奏がそのルーツです。ラベルやプロコィエフといった海外の作曲家もチャーリー・パーカーに手紙を書いたといわれています。

それは、Bebop ビバップと呼ばれるジャズ、そして音楽そのものの革命でした。

 

ジャズは、アフリカ系アメリカ人の音楽にルーツがあるといわれますが、チャーリー・パーカー以前のジャズは決して彼らの音楽ではありませんでした。「黒人」のエキゾチックな音楽として、白人のプレイヤーが顔を黒く塗って演奏をすることもありました。ニューヨークのジャズクラブなどでは、黒人系の人々が演奏をしながらも、客は白人に限定という差別もありました。

そうした意味では、チャーリー・パーカーは、アフリカ系アメリカ人にジャズを取り戻した人物であるといっても過言ではありません。マイルス・デイビスや、ジョン・コルトレーンといったアーティストが彼に続き、ビバップ以降のジャズは、アフリカ系アメリカ人の演奏家が変革の主役となってゆくのです。

 

歴史は、国家間の条約や民族のどうのこうのという事柄だけで造られるものではありません。人々の平等や多様性の尊重というアメリカの価値観を作った歴史の背景には、チャーリー・パーカーのような破天荒な生き様を晒した人々が表現した音楽があり、その延長にキング牧師の演説やマルコムXのような政治活動があるのだということを、ここで再認識してみたいのです。

チャーリー・パーカーが生き、ジャズという音楽に革命がおき、その直後にアメリカでは公民権運動が盛り上がり、アフリカ系アメリカ人をはじめ、白人系以外の人々にも平等の市民権が認められます。音楽での革命と、人種差別撤廃という革命とは、一つの線でしっかりと繋がっていたのです。

このアメリカの多様な美しさを、今脅かしているのが、ドナルド・トランプ氏などの主張する移民排斥運動なのです。
彼のアドリブ演奏に脈打つリズムから「怒り」を感じ、そのやり場のない「怒り」こそが、彼の破滅的な人生そのものだったと思えば、このヘッドラインで紹介した文章の哀愁が読者の方々にも伝わるのではないでしょうか。

チャーリー・パーカーは無神論者 Atheist であったいわれています。そして彼に続いた多くのアーティストやアフリカ系のアスリートは、アメリカの伝統的なキリスト教を離れ、イスラム教に改宗したりするなかで、自らの社会的な立ち位置をアピールしたものでした。

アメリカの伝統、それは最早プロテスタント系白人のみの伝統ではなく、ここに紹介したアフリカ系アメリカ人を含む、様々な人種や、そうした人々の異なったライフスタイルが醸し出す多様性こそが、伝統となっているのです。
そんな伝統を守り抜けるかどうかが、今回の選挙のテーマとなっていることを我々は知っておきたいと思うのです。


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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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