フランスの連続テロ事件を受けて

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フランスの連続テロ事件を受けて

Bomber posed as refuse in Greece and was issued emergency Syrian passport, French senator tells CNN.

(フランスの議員へのCNNの取材によると、爆弾テロの容疑者はギリシャで難民を装い、シリアの臨時のパスポートを発行されていた)

CNNより

 

今回のフランスでの連続テロがおこった直後、Twitterが一つの話題をめぐって熱くなりました。

茂木健一郎さんなどの著名人が、日本のマスコミの鈍い報道体制についてTweetで批判し、英語のわからない日本人は、これでは世界の緊迫した状況を把握できないじゃないかと批判します。 それに対して、しっかりと検証した上で報道するべきで、おきたばかりの事件を拙速に報道する必要がないとか、放映権の問題で対応できないこともあるのでなどという反論も寄せられました。

私も、フランスのテロの一報が入ってから、BBCとCNNにチャンネルを合わせ、直接状況を把握しようと努めました。 率直なところ、今回のテロの問題のみならず、日本のメディアの海外のニュースの報道には、私もずっと不満を抱いていました。

まず、報道量が極めて少なく、海外では大きく取り上げられていることが報道すらされないことも時々あります。報道機関が、日本からは遠い話なのでと勝手に取捨選択しているのではと思われるケースも多々あります。 もちろん、ニュースは刻一刻と真実が変化します。ですから、第一報をうのみにすれば、誤報に惑わされる危険があることは事実です。

しかし、刻一刻と変化する状況こそが大切なのです。その緊迫感を伝え、常に変化する状況を視聴者が認識することこそ、世界の動きへの冷静な対応を育むことができるのです。 放映権があって報道がうまくいかない状況などは言語道断。それは日本のメディアが自分で取材する能力を持っていないことを露呈しているに過ぎません。それは、現場にまず駆けつけて映像を送るクルーとジャーナリストの配備が充分ではなく、そこで取材した情報を適宜編集し伝達するノウハウがないことを意味しているに過ぎません。

加えて、基本的な問題として、日本人の多くが、日本ではまさかこんなことはという意識があって、世界でおきていることを自分のこととして捉えない風土があることも、こうした報道の課題とは無縁ではないかもしれません。 もちろん、海外でおきていることは、日本でもおこりうる我々の問題なのだという意識を持つ必要があることはいうまでもありません。

さらにこうした問題を深く考えるとき、東日本大震災への海外のメディアの取材を思い出します。 あの日、成田空港で地震に遭遇した私は、その日のフライトがキャンセルになったため、二日後の飛行機でサンフランシスコに飛びました。印象深かったのは、サンフランシスコで海外の報道をみたとき、政府の発表だけを伝える日本の報道機関よりも、彼らが遥かに的確に原子力発電所の惨事と状況の深刻さを視聴者に伝えていたことを覚えています。彼らが日本政府の対応や発表への懐疑をいち早く世界に報道していたことから、皮肉なことに私もアメリカから日本でおきていることの深刻さを日本に住む友人に伝えたことを忘れません。

グローバルという言葉がどこでも使用される現在、日本の報道機関は日本人の色眼鏡や政府などの権威のみを情報源とした報道姿勢を改めてゆく必要があります。コメンテーターなども、日本人のみではなく、海外にもネットワークするべきですし、まずおきていることをそのまま映像で視聴者に流し、よくある解説者のおきまりの評論ではなく、視聴者が事実をみて判断する環境を報道機関は造ってゆく必要があるのです。

もちろん、今回のテロ事件は、その後日本の報道機関も大きく取り上げました。そして、ここに紹介したように、犯人の一人がシリアからの難民を装っていた事実は、日本のマスコミも遅まきながら伝えはじめています。今後、ヨーロッパがこの事件を契機に難民問題にどう向き合い、EC各国の中で巻きおこっているナショナリズムと、グローバルな人権問題とのバランスをどのようにとってゆくか注視しなければなりません。 また、ISへの空爆を正当化するロシアの攻勢と、中東問題に深く絡んできたアメリカやイギリスとの微妙なパワーバランスが、この事件を契機にどのように変化するかも気になります。

このように、今回のテロの問題が我々に突きつけた課題は複雑です。それだけに、日本のメディアにも、より広範で迅速な報道が求められているのです。


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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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