(1)ポジティブさの想像以上のパワー
先々週、つまり2つ前のメルマガのこのコーナーで、
「いつもこの「多様性・・・」のコーナー では、世界中から多種多様の人種や 民族の集まるニューヨークで感じた、 様々な文化や価値観の違いを示す 事例を話題にしてきたけれど、 いつもとは逆に多様な人々にも、 共感されるものについてちょっと 考えてみよう・・・」
ってことで、ファレルさんの『Happy』とディズニーの新作アニメ映画の『レット・イット・ゴー』の2つの曲について取り上げたが、その後、2週間の間に、『Happy』も『レット・イット・ゴー』もものすごい社会現象を巻き起こし続けている。
ファレルさんの『Happy』については、すでに今回の特集で取り上げたとおりだが、3月14日に日本で全国公開されたばかりの『アナと雪の女王』も、さっそく大ヒット中だ。
報道によると、3月14日に公開された直後の週末3日間の興行収入は9.9億円、観客動員は79.3万人の好スタート。
これは13年に公開され89.6億円の大ヒットとなった『モンスターズ・ユニバーシティ』の公開3日間(興行収入9.5億円、観客動員68.9万人)を上回っている。
また、興行通信社発表の週末興行収入ランキングでも初登場1位を記録。
2013年11月27日に全米公開されて以来、最後の公開国となった日本を含め、これで世界50ヶ国で1位!!!という、まさに文化や価値観の違いや壁をこえた、とんでもない記録を打ち立てている。
2週前にも、文化や価値観の違いや壁をこえていける人間に共通したポジティブ・メッセージの重要性については、このコーナーでじっくり考えたつもりだったけど、たった2週後の今、振り返ってみても、そのパワーは想像以上のものと言えるだろう。
『Happy』についてはすでに特集で大きく取り上げているので、ここでは、『アナと雪の女王』について、この作品がディズニーにとってどれだけ特別な意味合いを持つ重要な作品であるか、ちょっと触れておこうと思う。
(2)『アナと雪の女王』の意義
近年、快進撃を続けるディズニー。
しかし、その歴史をよーく見てみると、実は、CGアニメが普及し出した頃に、存亡の危機に瀕していた時期があった。
1937年(昭和12年、日中戦争勃発の年)に公開されたフルカラーの長編アニメ『白雪姫』以降、ウォルト・ディズニー率いるディズニー社は、米国を代表するエンターテインメント企業として、成長を続けていった。
日本でも大人気のディズニー・ランドもその1つだ。
90年代には『ライオン・キング』や『アラジン』などのアニメ映画が大ヒットし、大人も子どもも楽しめるアニメと言えばディズニー・・・のようなブランド・イメージが完全に定着したかに思われた。
しかし、その直後、90年代後半から2000年代初頭までのディズニーは、道に迷いはじめる。
アニメも実写映画も不作が続いた。
ちょうど世紀末という社会心理が不安定な時代となり、それまでディズニーが掲げてきた子ども達に持ってもらいたい「夢や希望」といったメッセージを、そのままストレートに訴えても、以前のような共感を得られなくなってきたため・・・と、当時のディズニー幹部は釈明していたが、その考え方自体が勘違いというか、大間違いだった。
当時のディズニーの幹部は、愚かにも、ディズニー本来の持つ魅力を軽んじて、中途半端に現実社会に迎合した作品(ディズニーらしくないジョークやシーンも交えたもの)を作り、それらがことごとく失敗したのだ。
ディズニーがもともと掲げていた子ども達に持ってもらいたい「夢や希望」といったものを大切にしようという優秀な人材も大量にクビにした。
そんな本当のディズニー精神を持っているのにクビになった人材が、後にスティーブ・ジョブズが創業したピクサー(トイ・ストーリー以降の作品をディズニーで配給)の成功を支えることになったので、長い歴史から見れば良かったのかもしれないけどね。
とにかく、ディズニー社は1990年代後半から2000年代前半に存亡の危機に瀕していた
その危機から脱するため、ディズニー社は、1984年からずっと最高経営責任者についていたマイケル・アイズナー氏を、2004年3月の株主総会で不信任とし、新たにロバート・アイガー氏をトップにしたのだ。
なお、このアイズナー氏の解任劇の背後には、ピクサーのオーナーだったスティーブ・ジョブズ氏が関与していて、2004年にピクサーをディズニーが完全買収して統合する際の条件になっていたということが、後日、ジョブズ氏の伝記で詳しく明らかにされている。
また、不振の続いたディズニーのアニメ部門の主要な責任者も、その前後に全員クビとなり、その代わりにピクサー幹部(=ディズニーがもともと掲げていたディズニーの理想を一番よく分かっている人々)が、ディズニーのアニメ部門の舵取りもすることなった。
つまり、このディズニーによるピクサーの買収劇は、もともとディズニーが掲げていた文化や価値観の違いや壁をこえるポジティブ・メッセージが、いかに重要なのかを教えてくれる出来事とも言えるだろう。
その後、ロバート・アイガー氏は、2009年8月にマーベル社(米コミック界のスーパーヒーロー等、5,000以上のキャラクターを保有)、2012年10月にルーカス・フィルム社(スターウォーズなどの映画制作&版権保有)を相次いで買収。
相変わらず絶好調のピクサー映画作品という追い風もあって、急速にディズニーを復活&成長させていった。
〔ご参考〕
●快進撃のディズニー、Iron Man3も公開初週末歴代2位の大ヒットに
http://nyliberty.exblog.jp/20400222/
しかし、よくよく考えてみると、ピクサー作品ではなく、ディズニーがもともと掲げてきたディズニーらしいテーマを持つアニメ作品は、2005年以降、これと言ってずば抜けたヒットは出てきてなかった。
まぁ、ディズニーも大きな組織だし、ピクサーはピクサーでもともと作っているCGアニメ作品の制作もあるため、ディズニー本体のアニメ部門を大改革して、良質な作品を作れる体制に変えるには、それだけ時間が必要だったということなのだろう。
とにかく、『アナと雪の女王』は、一度、危機に瀕したディズニーのアニメ映画が、なんやかんやあった後に、ようやく本来のディズニーらしさを取戻し、復活を遂げたことを世界に知らしめる作品というわけだ。
その結果、興行成績がディズニーの歴代アニメ(含、ピクサー)の中でもトップ3に入る大成功となったわけで、そういう意味で、『アナと雪の女王』はディズニーにとって非常に意義深いのである。
なおちなみに、2005年以降のいわゆる伝統的なディズニーのアニメ映画作品は、以下のものとなっている。
2005年10月30日
『チキン・リトル』
(Chicken Little)
2007年3月30日
『ルイスと未来泥棒』
(Meet the Robinsons)
2008年11月21日
『ボルト』(Bolt)
2009年12月18日
『プリンセスと魔法のキス』
(The Princess and the Frog)
2010年11月12日
『塔の上のラプンツェル』
(Tangled)
2011年7月15日
『くまのプーさん』
(Winnie the Pooh)
2012年11月2日
『シュガー・ラッシュ』
(Wreck-It Ralph)
2013年11月27日
『アナと雪の女王』
(Frozen)
2005年以降は作品数を絞って、だいたい毎年1作品のペースで制作している(ただし、アニメ部門のトップがピクサーと入れ替わった直後の2006年はゼロ本)が、徐々に組織を建て直し、2011年の『くまのプーさん』あたりで制作者の意識も原点に回帰させ、ホップ、ステップ、ジャンプで、『アナと雪の女王』が誕生したということなのだろう。
(3)ビジョンを掲げられるのも才能
こういうディズニーの内情は、アメリカでは普通に新聞や雑誌のニュースになったりしてるので、ご存知の方も多いが、日本ではほとんど報じられることがない。
あるいは知っていたけど、あまりに近年のディズニーが好調なので忘れていたという方も多いのではないだろうか?
でも、ディズニーほどの大御所でも、大きくポジティブなビジョンを掲げることの大切さを忘れてしまうことがあるっていうことは、多くの日本人にとって、とても勉強になることだと思う。
また、そうしたポジティブ・メッセージを忘れたことで低迷期を迎え、そこから復活した理由も、もともと掲げていたポジティブ・メッセージを取戻したからということも、非常に参考になるだろう。
不平や不満や文句なら、いくらでも出るが、夢や希望といったものや、あるいは明るい未来へのビジョンの類を掲げることは、簡単なことじゃない。
誰にでもできることじゃないのだ。
そんな夢や希望なんて理解してくれる人はいないんじゃないか?って不安に思ってしまうこともあるだろう。
でも、いつも、どんなときだって、人間はより良い未来を築いていこうという大きなビジョンを掲げ、夢や希望を語るリーダーのもとに集まる。
ちょっと歴史を振り返ってみれば、
明らかなことだ。
そこに必ず、文化や価値観の違いをこえ、グローバル化時代にも、多くの人々の心をつかむカギがあると思う。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
「多様性のもたらすもの」のコーナーでは、より良い日本の未来を築くうえで、役立ちそうな発想や情報を織り交ぜながら、ニューヨークの最大の魅力である「多様性」について感じたことや思っていることを書き綴っていこうと思います。
また、逆に、人口の98%以上が日本人であるため、ニューヨークのような「多様性」が社会に見られない日本だからこそ持つ長所や強みなどについても取り上げていきます。
いずれにしても、日本の中にいると気づかなかったり、見過ごしがちなアイデアや視点を少しでもお届けできれば良いかなと思います。