中東情勢から台湾の総選挙まで、世界におこる玉突き現象

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中東情勢から台湾の総選挙まで、世界におこる玉突き現象

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 Let’s remember that our leadership is defined not just by our defense against threats, but by the enormous opportunities to do good and promote understanding around the globe – to forge greater cooperation, to expand new markets, to free people from fear and want. And no one is better positioned to take advantage of those opportunities than America. 

(脅威から身を守ることのみではなく、新しい市場を創造し、恐怖と貧困から人々を解き放すために世界中に協調と理解を求めてゆくことが、我々に求められているリーダーシップであることを忘れないようにしよう。アメリカ以外にそうしたことができる立場にある国はないのだから)

オバマ大統領の年頭教書より

2016年になって早々、世界ではすでにいろいろな事件がおきています。 重要な素材をここに並べてみます。

1) トルコやインドネシアで自爆テロによる爆発事件が頻発
2) サウジアラビアでのシーア派活動家の処刑以来、イランがサウジアラビアや湾岸諸国と緊張関係に
3) イランがアメリカ海軍の船舶を拿捕するも早期に解決
4) 西側諸国のイランへの制裁解除
5) 世界的な原油安
6) 北朝鮮が水爆実験成功と発表
7) 香港で中国政府に批判的な書店経営者が失踪。中国側に拘束された模様
8) 台湾で中国と距離をおき、台湾独自の路線をと訴える民進党が勝利
9) アメリカでオバマ大統領が最後の年頭教書を

世界のニュースは常に巨視的な発想での把握が必要です。 例えば、中国政府は自主独立を目指し、漢民族からの差別に反発する少数民族の政治的な動きに悩まされています。特に西域に住むウイグル族との緊張は周知の事実です。 イスラム教徒であるウイグル族への弾圧が、ウイグルでの過激な活動を誘発し、はじき出された活動家は東南アジアやトルコへ移住し、そこからISISの支配地域へ越境し、テロのノウハウを学びます。

この中国国内の問題は、香港に住む中国人の懸念につながります。民主的な活動を保障されて、中国の一部になった香港の人々は、ウイグル族などへの言論統制に代表される中国の強圧的な政策を、他人事として捉えることはできません。台湾の人々もこうした動きに無関心ではないはずです。香港で中国政府の活動に批判的な書店経営者5名が失踪し、中国当局に拘束されたのではという憶測は、香港や台湾でのそうした懸念に拍車をかけました。台湾での総選挙の結果は世論の中国離れを如実に見せつけたのです。

一方、中東のもつれた紐を地道に解くためにも、イランと西側諸国の雪解けは必要不可欠です。イランはシーア派の国家で、スンニ派が主流のサウジアラビアなどとは潜在的な緊張が常にありました。さらに隣国イラクで、スンニ派のサダム・フセイン政権が倒れて以来、国内のシーア派の人々がスンニ派を圧迫したことも、ISISが団結した原因の一つであったことも忘れてはなりません。

そんな、中東でシリアが台風の目になっています。ロシアと親密なアサド政権と、それに反発するアメリカや西側諸国が、フランス、トルコ、そしてインドネシアなどでテロ活動を繰り返すISISへの対応をめぐって、ロシアと駆け引きを続けています。ロシアの影響力を削ぎながら、共通の敵となったISISの脅威に対処するためにも、中東のもう一つの大国イランを少しでも欧米寄りにしておく必要があるのです。そんなときに、同じアメリカの同盟国サウジアラビアとイランとが対立したことは、アメリカにとっては思わぬ難題をつきつけられたことになりました。

一方、イランへの西側諸国の制裁解除とともに、イランの原油が大量に流通することになりました。それによる、原油安によって、世界経済が混乱する可能性もでてきました。それでなくても中国経済の先行きが不透明である以上、この懸念は深刻です。特に、サウジアラビアや湾岸産油諸国にとって、イランが国際社会に復帰して、石油価格が下落してはたまりません。サウジアラビアとイランとの間におきた緊張関係の背景には、この石油を巡る問題があるはずです。ISISなどを巡る政治問題と、石油を巡る経済問題が、お互いに矛盾したベクトルをつくっているのです。

こうした中東問題に忙しい世界情勢をにらみ、北朝鮮は水爆実験を行い自らの抑止力を強調します。確かに、アメリカも中国も、そしてロシアも、北朝鮮問題への手詰まり感は否めません。

オバマ政権は今年が最後の年。アメリカは、複雑な世界情勢をうまく操りながら自国の権益を拡大しつつあるロシアや中国の動きをにらみ、自らの影響力の維持に懸命です。舵取りを誤れば、世論の右傾化の中、大統領選挙で急速に支持率を拡大するドナルド・トランプ氏に民主党が破れる可能性も否定できません。オバマ大統領の年頭教書は、そんな国内事情を強く意識したものでした。ロシアや中国がこのアメリカの国内事情をどう見極め、中東問題や北朝鮮問題、南シナ海などの領土問題へのカードを切ってくるか。様々な憶測が流れます。

今年になって世界でおきたことが、お互いに玉突きのように影響しあいながら、一つの線で横につながることが理解できたと思います。世界情勢を理解するには、一つ一つの事象だけを見るのではなく、常にこうした水平思考が必要です。 この横の線に、日本の地理的な、そして経済的な位置を重ねることで、我々は政府の外交、安全保障政策の是非を分析し、見つめなければならないのです。


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Yoji Yamakuse
山久瀬 洋二
1955年大分県生れ
大手出版社のニューヨーク駐在員を経て現地で起業。同地と東京を中心に100社近くに及ぶグローバル企業にて、国際環境での人事管理、人材開発などのコンサルティング活動を展開し、4000人以上のエグゼクティブへのコーチングを実施。著書は「日本人が誤解される100の言動」「言い返さない日本人」など多数。

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