魔法少女vs女性差別という悪霊

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魔法少女vs女性差別という悪霊

By: The 5th Ape

第94回:本当の意味で多様性のある組織が求められている

(1)魔法少女の次の敵は?

映画ハリー・ポッターのハーマイオニー役でデビューした子役時代からすくすくと育ち、世界的に有名になった若手女優…と言えば、エマ・ワトソン(Emma Watson)さん。

魔法少女として長年に渡って、スクリーンの中で悪霊と戦っていた彼女が、今週月曜日(7月8日)、男女平等と女性の地位向上を目指す国連組織「UNウィメン」の親善大使に任命された。

日本ではほとんど報じらていないようだが、男女平等に強い関心と意識を持つ欧米メディアではこれを受け、

『エマ・ワトソンさんはもっと多くの男性が、世界的な男女平等について声を出して欲しい。』

などと題された記事が、多数報じられた。

【ご参考】

●Emma Watson Wants…

欧米諸国(特にアメリカ)では、教育や就職や政府への参加などの機会において、男女平等がとっくの昔に実現されている。

少なくても法制度上はそうだ。

世間一般の意識も男女平等は当然のものになっていて、女性を差別しようなんて人は袋叩きにあう。

そんな彼らからしてみれば、教育や就職や政府への参加などに女性差別がいまだに残る世界の他の国々は、まさに悪霊にとりつかれているように見えるのかもしれない。

そこで、魔法少女の登場というわけだ。

このニュース、多くの日本人はいろんな意味で学ぶことがたくさんあるだろう。

まず必ずしも、

「自由の国アメリカでは、なんでもあり!!!」

というわけじゃないってことだ。

世間体を気にしたり、空気を読めと言われたり、何かと息苦しい環境からアメリカにやってきた日本人の中には、

「自由の国アメリカでは、なんでもあり!!!」

みたいな印象を持ってる方も少なくないと思う。

しかし、実際には、そんなアメリカでも受け入れられないダメな発想や価値観は、わりと結構、存在する。

その1つが男女差別に関するものだ。

あらゆる場面において、

「女性差別はダメだよ」

となっている。

基本的には、世界中から多種多様な文化や価値観を持つ、様々な民族と人種が共存するニューヨークのようなグローバル化の進んだ社会では、通常、各国・各民族が伝統的に持っている独自の文化や価値観は、たとえそれを理解できなかったとしても、否定したり侮辱せずに、尊重される。

それが、多様性のある社会における目には見えないルールのようなものになっている。

しかし、いくら伝統的な独自文化や価値観だと言っても、

「女性差別はダメだよ」

となる。

いくら多様性のある社会でも、受け入れられない文化や価値観がある、ということは重要だ。

ちゃんと知っておかないと、後々大変なことになる。

またこれは、要するに、

「すべての人間は平等につくられている」( All men are created equal)

という考え方にもとづく。

アメリカ独立宣言にも書かれている有名な考え方だ。

(2)なぜ『多様性』が重要なのか?

エマ・ワトソンさんの国連組織「UNウィメン」の親善大使任命に関連して、何か日本でもニュースになってないのかな?と探してみたら、日経の7月7日付の記事に以下のようなものがあった。

【ご参考】
●本当の意味で多様性のある組織

プロノバ代表取締役社長・グロービス経営大学院教授の岡島悦子さんという方へのインタビューを記事にしたものだ。

記事は冒頭から、

『世界経済フォーラムが発表している男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数によれば日本は136カ国中105位。

なかなか女性がリーダーとして活躍しきれていない現状があります。特に政治やビジネスの世界でその傾向が顕著です。

こうした状況の背景には、様々な複合要因が考えられます。』

からはじまり、これからの日本の社会における男女平等の重要性について書かれている。

興味深いのは、

「本当の意味で『多様性のある』組織が求められている」

というタイトル。

「本当の意味で『男女平等な』組織が求められている」

じゃないってことだ。

このタイトルだけ見ても、日本の場合は、ただ『男女平等』を主張してもなかなか実現されにくく、できる限り多くの人々からもっと共感を得られそうな別の表現、例えば『多様性』のようなコトバが用いられているのかな?などと思ったりして。

でも、しかし、よくよく考えてみると、その『多様性』というコトバも、それ自体、抽象概念であり、決して分かりやすいコトバではない。

特に、人口の98%以上が同じ文化や価値観を持つ日本人によって構成され、世界の他の国々と比較すると、社会に『多様性』が薄い日本では、分かりやすいコトバとは言えない。

まぁ、だからこそこのメルマガでは、毎回、様々な事例を取り上げて、『多様性』について考えるようにしているわけだ。

では、この日経の記事で、岡島悦子さんは、

「本当の意味で多様性のある組織が求められている」

などと、いったいどのような理由、あるいは、どんな理論展開に基づいて主張しているのだろう?

非常に興味深いところなので、以下、その要旨を列挙してみる。

◆戦後、日本は基本的には右肩上がりで経済が成長

◆企業は新卒採用で大量採用し、人材の画一化を目指した

◆人材を画一化すると、コミュニケーションコストが低く済み、マネジメントしやすく効率の良い組織になる

◆ところが今の時代、人材を画一化した組織では変化に対応できない

◆これからの変化の激しい世の中を生き残るためには、会社組織には『非連続の成長・イノベーション』が求められていて、組織内に『多様な視点』があることが強みになる

◆『多様な視点』を持つために、『多様な働き方』を受容する『多様性のある組織』になっていく必要がある

◆『多様な働き方』を真の意味で実現する「ダイバーシティ3.0」に突入しつつある

要するに、戦後の高度成長期は、画一的な人材育成や働き方でも良かったが、これからの変化の激しい世の中を生き残るため、会社組織には、『非連続の成長・イノベーション』が求めらられていて、そのために『多様性のある組織』になっていく必要がある、という主張だ。

ずいぶんとややこしい言い回しをしているような気もするが、

「なぜ『多様性』が重要なのか?」

の1つの説明としては、まぁ、アリかなと思う。

生物学的には、ある地域に住む生物の種があまりに繁栄し『画一化』すると、他の生物の種が減少・絶滅し、健全な生態系が劣化・崩壊し、環境破壊につながるということが科学的に指摘されている。

『画一化』の結果、いずれ結局、その地域に住む生物がすべて滅びる危険性がある、という。

岡島悦子さんの主張する、

「これからの変化の激しい世の中を生き残るため、会社組織には『非連続の成長・イノベーション』が求めらられていて、そのために『多様性のある組織』になっていく必要がある」

…という内容は、こうした生物学的な知識を持ってると、もう少し理解しやすくなるのかも?

まぁ、ちょっとだけかもしれないけど。

でも、それにしても男女平等の重要性を訴えるのにも、国によっていろんな訴え方があるなと実感。

魔法少女役だった女優さんが、

『もっと多くの男性が、世界的な男女平等について声を出して欲しい。』

…などと、真正面から女性差別の悪霊退治に乗り出すと報じるアメリカ。

一方、『多様性のある組織』という表現で、『男女平等』という単語を一言も使わずに男女平等を主張する日本。

やっぱり世界には、多種多様な文化や価値観があるということか…。

でも、だからこそ、これからのグローバル時代に備えて、日本人は、

「すべての人間は平等につくられている」( All men are created equal)

「女性差別はダメだよ」

っていう考え方を、よく覚えておいた方が良いだろう。

りばてぃりばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。
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