違和感だらけの謝罪会見がもたらす異文化体験
第93回:日本国内にいながら異文化体験?!
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(1)号泣政治家現る
今週は、195回にも上る「領収書なし」「詳細報告なし」の視察を繰り返し、約300万円もの不可解な政務活動費の支出が判明した事件。
特に“号泣会見”が大きな話題になっている兵庫県の野々村竜太郎県議(47)を取り上げてみたい。
あの号泣会見は世界のニュースにもなってしまっているので、ご存じない方はいないだろう。
〔ご参考〕
●野々村竜太郎議員 兵庫県議が
政務費不正疑惑でウソ泣き?
http://youtu.be/Gviufzt7dgk
早くも「乗車したとされる急行電車が運行してなかった」とか「出張中の日に別の場所で大量の切手を購入していた」などの矛盾点が続々と暴かれ、視察そのものが虚偽の報告(=活動費だけをもらうための空出張)だったのでは、と突っ込まれている。
本人に言わせれば「不正を誤魔化すために、あんな号泣会見をした」ということなのだろう。
でも、誤魔化せるわけがないし、47歳にもなって号泣会見とかありえない。
ものすごい違和感を感じる。
そもそも195回にも上る「領収書なし」「詳細報告なし」の視察なんていう、無茶苦茶な内容に、これまで約300万円もの政務活動費が支払われていたこと自体が、まったく理解できない。
もう少し、いったい何が起こっているか考えるために、野々村県議のプロフィールを見てみよう。
野々村竜太郎県議は、大阪府立北野高校、関西大学法学部を卒業し、川西市役所に勤務した経歴を持つ。
どちらかといえば、立派な学歴・職歴だ。
そして本人のFacebookによると、2007年11月に退職し、政治家の道を志す。
きっかけは2008年1月、「北野高校の後輩にあたる橋下徹氏が、大阪府知事に初当選したことに触発されたため」とのこと。
しかし、その後出馬した選挙では当選ラインにかするどころか、すべて最下位の惨敗で、4連敗を続けた。
それはもう以下のような散々な結果だった。
◆2008年7月、兵庫県太子町長選では、候補者3人中最下位の485票で落選。
◆2008年11月、兵庫県西宮市長選では、候補者6人中最下位の6184票で落選。
◆2009年7月、兵庫県議補選西宮市選挙区(被選挙数1)では、候補者3人中、最下位の33359票で落選。
◆2010年5月、西宮市長選では、候補者3人中最下位の25924票で落選。
浪人中の生活は苦しかったという。2回目の西宮市長選に立候補したときに朝日新聞に掲載された記事には、
『独身。現在は預貯金を取り崩して生活しているという。健康のために毎朝、自宅近くをジョギングしている。長い時では2時間ほど走る。一番の趣味はカラオケ。両親と行くことが多く、フランク永井や吉幾三、杉良太郎の歌が得意という。』
(出典:朝日新聞<阪神版>2010/05/11)
と記されていた。
そして約3年前となる2011年4月、兵庫県議選西宮市選挙区(定数7)で、候補者10人中、7番目の11291票を獲得し、最下位で当選。
「5度目の正直」を果たした。
44歳のときだった。
だが、その「5度目の正直」も実は詐欺じゃないかとの指摘が出ている。
この選挙当時は、橋下徹氏が「大阪維新の会」を旗揚げして初の統一地方選ということで、大阪府議会や大阪市議会などでは「維新の風」が吹いていたのだ。
野々村氏は「大阪維新の会」とはまったく関係がなかったのにも関わらず、勝手に「西宮維新の会」を名乗っていた。
つまり、一部の有権者が勘違いして入れた可能性があるのだ。
そして、それ以前の選挙で4連敗、全て最下位だった野々村氏が当選できた。
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(2)普通の日本人の感覚
普通の日本人の感覚なら、まったく理解できないことばかりだ。
普通の日本人の感覚であれば、4回も選挙で最下位で負けて、詐欺まがいの手法でようやく当選したのなら、他の議員よりももっと真面目に市議会議員の活動に取り組んで、何かちゃんとした成果や実績を残そうとするだろう。
制度の隙間をついた意図的な空出張をして、政務活動費をもらってしまおうだなんて、まず絶対に考えない。
なんだかんだいっても、普通の日本人は今でも基本的には真面目で勤勉だ。
また、普通の日本人の感覚であれば195回にも上る「領収書なし」「詳細報告なし」の視察なんていう、すぐにばれるような嘘をつこうとも考えない。
それがどれだけ愚かなことなのか、普通の日本人なら誰だって簡単に想像がつく。
さらに、そのような嘘がバレてしまいそうになったとしても、普通の日本人の感覚であれば47歳にもなる男性が、あんな無様で恥知らずな号泣会見を開こうとは、微塵も考えないだろう。
まして、“どちらかといえば立派な学歴・職歴を持つ47歳の男性”なら、なおさらだ。
何から何まで、違和感しかない。
今年は、こうした違和感を感じさせる強烈なキャラクターを持つ人物がよく話題になる年だと指摘する声も出ている。
例えば、新型万能細胞「STAP細胞」をめぐる捏造問題で話題になった小保方 晴子さん。
今週7月1日には、財務省が彼女の所属する独立行政法人理化学研究所の2013年度の予算の無駄遣いを点検した結果を公表。
検査キットや実験用動物の購入など、物品調達の契約(予算額531億円)の見直しを求めたと報じられたが、その中でノートパソコンを年間238回(4673万円)も購入していたことが明らかにされている。
〔ご参考〕
●STAP問題の理研も無駄遣い…
指摘改善されず
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20140701-OYT1T50089.html
小保方さんの言動から感じられる違和感もハンパじゃないが、ここにきて明らかになった理化学研究所の1年間に238回(4673万円)もノートパソコンを購入してたという予算の使い方も、普通の日本人の感覚ではまったく理解できないものだろう。
同じく今年、ゴーストライター問題で謝罪会見を開いた「聴覚を失った現代のベートーベン」の佐村河内 守さんという方も話題を集めた。
全聾の作曲家だとされていたが、実は耳は聴こえるし、作曲どころか楽譜を書くことすらできないという、普通の日本人の感覚では、まったく理解できない何もかもが嘘な人だった。
こういう人々が話題になると、世の中にはいろんな人間がいる、と改めて考える機会になる。
日本の場合、人口の98.4%、つまりほとんどの人々が同じ文化や価値観を共有する(とされる)日本人によって構成されているため、通常ここまで違和感を感じさせる人に出会うことはない。
そういう意味ではこうした出来事があると、日本国内で異文化体験をしているようなものだ。
改めて、普通の日本人の感覚がどういうものなのか、どのような言動があるべきものなのか等について考えさせられる良い機会になっているような気もする。
幸い、こうした出来事が話題になるたびに、多くの日本人は違和感や異常性を感じることができる。
その違和感は、多くの日本人が「人間は正直で真面目で勤勉であるべきだ」と、無意識のうちにでも考えている証拠と言えるだろう。
「嘘をつけば、結局いずれ自分にそのつけが回ってくる」ということも、多くの日本人はよく理解している。
そうした考え方が、見知らぬ人々とも深い信頼関係を築き、より良い方向へと社会を発展させていくことができる日本人ならではの感覚の根底にある。
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(3)日本文化の素晴らしさ
そうした日本人ならではの感覚は日本の中では当たり前のもので、だからこそこうした事件が報じられるたびに違和感を感じる。
しかし、日本の国の外の広い世界ではそうではない。
「人間は正直で真面目で勤勉であるべきだ」とか、「だからこそ見知らぬ人々とも信頼しあえる」などという価値観が、そもそもない国もある。
多種多様の文化や価値観があるのだ。
そうした多様性に触れることで、カルチャーショックを受けることもあるだろうけど、同時にそうした経験から改めて日本文化の素晴らしさに気づくことも多い。
これも多様性のもたらす有意義な効果と言えるだろう。
号泣議員の一件も、日本人が「正直で真面目で勤勉であるべきだ」という、日本人ならではの感覚を再認識する良い機会、一種の異文化体験になったら良いじゃないのかなと思う。
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「多様性のもたらすもの」のコーナーでは、より良い日本の未来を築くうえで、役立ちそうな発想や情報を織り交ぜながら、ニューヨークの最大の魅力である「多様性」について感じたことや思っていることを書き綴っていこうと思います。
また、逆に、人口の98%以上が日本人であるため、ニューヨークのような「多様性」が社会に見られない日本だからこそ持つ長所や強みなどについても取り上げていきます。
いずれにしても、日本の中にいると気づかなかったり、見過ごしがちなアイデアや視点を少しでもお届けできれば良いかなと思います。